ロンドン中心部の高級エリア・ナイツブリッジに位置するイギリス最大の老舗高級百貨店「ハロッズ(Harrods)」。この店舗は20,000㎡の敷地に90,000㎡以上の売り場面積を有し、330の専門店が出店している、大規模かつ由緒正しき百貨店だ。日本人にも人気が高く、「ハロッズ・ベア」と呼ばれるテディベアや紅茶を買い求める観光客で賑わっている。そんなハロッズの元オーナーが性的暴行を加えたとして20人以上の元従業員が告発するという前代未聞の事態が起きている。
疑惑の富豪とダイアナ元妃の意外な関係
イギリスの公共放送BBCによると、ハロッズで働いていた女性5人が、在職中に同デパートのオーナーだったエジプトの富豪モハメド・アルファイド氏にレイプされたと証言。さらにBBCは20人以上の元従業員の女性から、アルファイド氏からレイプを含む性的暴行を受けたという証言を得たという。
性的暴行は、イギリス国内のほか、フランスのパリとサントロペ、アラブ首長国連邦のアブダビで行なわれたという。犯行場所は、ハロッズのオフィスのほか、アルファイド氏のロンドンのアパート、海外旅行先などで、多くの場合は彼が所有するパリのホテル・リッツや、近くのヴィラ・ウィンザーが選ばれた。
アルファイド氏とはいったいどんな人物なのか。エジブトで生まれたのち、1974年に英国に移住し、1985年にハロッズを引き継いだ。1990年代と2000年代には、ゴールデンタイムのテレビのトーク番組や娯楽番組にゲストとして定期的に出演していたこともある。
アルファイド氏は、チャールズ英国王の元妻・ダイアナ元妃と共に1997年に事故死した恋人のドディ・アルファイド氏の父親でもある。
アルファイド氏は昨年、94歳で死去している。経済誌Forbesによると、生前の2023年4月4日時点で、20億ドルの資産を所有していた。
ハロッズはBBCの報道を受けて、“9月19日木曜日に放送されたBBCドキュメンタリーに関するハロッズの声明”と題した声明を発表した。
〈私たちは、モハメド・アルファイド氏による虐待の申し立てに非常に驚いています。これは、どこで活動していても権力を乱用しようとしていた個人の行為であり、私たちはこれを最も強い言葉で非難します。また、この間、私たちは企業として彼の犠牲者であった従業員に失望させてしまったことを認め、心からお詫び申し上げます〉
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「彼は何のお咎めもなしに静かに死んでいったのです」
声明では、アルファイド氏が経営権を持っていたのは1985年から2010年の間であり、現在のハロッズはそれとは異なり、従業員の福祉をあらゆる活動の中心に据えることを目指しているとした。また、被害を受けた従業員らの相談窓口も設けている。
〈過去を取り消すことはできませんが、私たちは、現在私たちが抱いている価値観に基づいて、組織として正しいことを行なう決意を固め、将来このような行為が繰り返されないように努めています〉
数十人にも及ぶ被害女性の代理人弁護士らが翌20日金曜日、ロンドンで記者会見を開いた。代理人弁護士は、アルファイド氏のことを「怪物」と表現。今回の女性に対する性的暴行は児童への性的暴行で有罪となった実業家のジェフリー・エプスタインなどの事件に匹敵すると主張した。また、他にも多くの被害者がいる可能性があると話した。
ハロッズで働いている従業員はこう話す。
「私が働き始めたのはアルファイド氏がいなくなった後ですが、女性従業員への性的暴行被害について当時から話題にはなっていたり、一部メディアで報道されていたりしました。しかし彼の権力が働いたのか逮捕されることもなかった。彼は何のお咎めもなしに静かに死んでいったのです。
現在の社内は想像よりも静かで、従業員たちは普通に働いています。事件が解決することを祈っています」
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取材・文 集英社オンラインニュース班