1,000人が参加する企業も。いま「社内運動会」が人気の理由。運動会屋・米司隆明さんに聞く。

自らの体験をもとに「やってみる」ことから未来につながる

――米司さんが「運動会屋」を立ち上げられたのはなぜですか。

新卒で入った会社、そして2社目での苦い経験が、事業設立の原点になっています。社会人のスタートは金融会社での飛び込み営業で、厳しいノルマを課せられていました。上司からの一方的な叱責も多く、「何のために仕事をしているのか」がわからなくなってしまった。

そこで転職を決意し、IT企業に移ったのですが、社内での会話はチャットでのやり取りがほとんど。戸惑いましたね。2社を通じて、厳しい上下関係、協力より競争、希薄な人間関係――そういうものに疲れ切ってしまったんです。

もともと私は学生時代に野球部に所属し、仲間と協力し合う喜びや一体感を体験していました。あの感覚を取り戻せないか、世の中に提供できないかと考えるようになり、2007年に会社を立ち上げました。最初はフットサルなど一つのスポーツに限定したサービスも考えていましたが、そうすると参加者の経験値や好みに差が出やすく、一体感が生まれにくい。最終的には、誰もが競技に参加・協力できるように「運動会」をやることに決めました。

アルバイトをしながら営業を続け、初受注は大阪の美容院チェーンでした。当時は競技の道具をどこから仕入れればいいかもわからなかったので、ホームセンターで材料を買って玉入れの道具を手作りしたんです。当日は至らないところも多かったはずなのですが、参加した社員は若い人たちが多く、関西のノリの良さもあって大成功を収め、大きな手応えを感じましたね。

――「運動会屋」という前例のない事業を、なぜここまで続けてこられたのですか。

創業からずっと、私の信条は「まずはやってみること」。まずやってみて、結果が悪くても諦めない。そして、次にやる時は失敗から学んだことをやってみる。その積み重ねで、皆に喜んでもらえるようになっていきます。

もちろん、それまでには周りからの反対や批判もありますが、自分がやりたいことに夢中になっていれば気になりません。むしろ前例がないもののほうが唯一無二の存在になれるチャンスだと思います。

そして、私はとにかくお客様の笑顔を見たいんです。なので、面白いと感じるものにアンテナを張り、新しいことや改善点を365日いつでも考えています。例えば、ドローンが話題になっていたら「これを何かの競技に生かせないかな?」と想像する。

でも、同じように忙しくはたらいていた新卒のときとは、気持ちがまったく違います。仲間とのつながりがあり、社会に対して何を提供したいのかが見えている。改めてその大切さも実感しています。

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日本が誇る「運動会文化」を世界中に広げていきたい

――社内運動会は徐々に注目を浴びています。これから挑戦したいことはありますか?

これまで通り、お客様企業の「風通しの良い職場環境づくり」に貢献するため、社内運動会のプロとしてサポートしていくとともに、この価値をもっと広げていきたいと考えています。

その一つが、運動会の海外展開です。これまでに8カ国で運動会を実施しました。もとは東京オリンピック・パラリンピックの一環で、スポーツを通じた国際貢献事業にエントリーしたことがきっかけですが、現在は「UNDOKAIワールドキャラバン」として活動しています。

運動会は、国籍や宗教、政治的信条などにとらわれず、誰でも協力しあって楽しめる。その体験が「世界平和」にもつながると思うんです。将来的には日本発の「運動会文化」として広げていきたいと考えています。

(文:伊藤真美)