『デビルマン』は救いようのないバッドエンドで幕を閉じることで有名ですが、実はそれはマンガ版の話であり、TVアニメ版はまったく違う筋書きです。ヒロインは死なないし、人類も滅亡しない……。その意外すぎる最終回を振り返ってみましょう。
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ダークヒーローの魅力を詰めこんだバトルアニメに
永井豪先生が1970年代に発表したマンガ『デビルマン』といえば、「史上最凶」とよばれるほど後味が悪い結末を迎えることで有名です。暴徒と化した人びとによってヒロイン一家が惨殺され、主人公が愛した女性も生首にされた上、人類は滅亡してしまう……というものでした。
一方でマンガと同時並行で制作、放送されたアニメ『デビルマン』のラストは、終始ハードモードだった原作とはだいぶ異なります。いったい何がどう違うのか、アニメ版の最終回を振り返ってみましょう。
『デビルマン』の設定を簡潔に説明すると、人間を抹殺し、地球を我がものにしようと企む異形の種族「デーモン軍団」と「デビルマン」の壮絶な戦いを描いた作品です。
マンガ、アニメともに、人間の青年「不動明」が悪魔と合体してデビルマンとなり、ほかの悪魔と戦うというストーリーは共通しています。しかしマンガでは人格のベースが明本人であったのに対して、アニメでは「デビルマンが死んだ明の姿を借りている」という設定です。そのためアニメ版は、「悪魔であるはずのデビルマンが、なぜ人間を守るためデーモン一族を裏切り、ほかの悪魔と戦うのか」というのがひとつのテーマとなっています。
そして物語のカギを握っていたのが、ヒロインの「牧村ミキ」でした。彼女は明が居候している牧村家の娘で、なにかと明の世話を焼こうとする心やさしい同級生です。しかも単にやさしいだけではなく、明が不良っぽい言動を取るとそれをいさめようとする芯の強い部分も持っていました。次第に明(デビルマン)は彼女にひかれ、愛の温かさを知ったことで人間を守ろうと決心するのです。
アニメの最終回にあたる第39話「妖獣ゴッド 神の奇蹟」では、そのようなふたりの絆が試されることになります。
こちらがマンガ史に燦然と輝く「最悪のバッドエンド」で名高いマンガ版。『デビルマン』画業50周年愛蔵版 第1巻 (C)Go Nagai/Dynamic Production
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史上最悪のバッドエンド……じゃない!?
最終回には、デビルマンがデーモン界で暮らしていたときの上役にあたる「妖獣ゴッド」が敵として登場します。ゴッドはほかの悪魔と違ってデビルマンの性格を熟知しており、彼がミキへの想いをきっかけに「デーモン一族」を裏切ったことを理解していました。そしてゴッドは、ミキに正体をバラされたくなければ地上を破壊する自分の邪魔をするな、とデビルマン(明)を脅迫します。
実のところ明は、この脅迫に一度、屈してしまいました。しかしミキの弟「牧村健作」とそのガールフレンドが危険に晒されたことをきっかけに、ゴッドとの戦いを決意します。
もちろん約束を破られたゴッドがこのまま黙っているわけがありません。ふたりの前に現れたゴッドは、ミキの「化け物!」という言葉に「俺は確かに化け物だ」と反応し、「しかし驚くのはまだ早い! 不動明! 奴もまた俺と同じ化け物だ! デビルマンとは彼のことだ」と明の正体を明かしてしまうのでした。
明はもはやこれまでと観念し、ミキの目の前でデビルマンに変身します。しかしミキはこれもゴッドの仕業だと言い張り、「神の名を騙る化け物! 明くんを元の姿に戻してよ!」とまるで信じようとしません。ミキの思わぬ反応に動揺したゴッドは、あえなくデビルマンの攻撃を受け、消滅してしまうのでした。
やがて人間の姿に戻った明は、バイクの後ろにミキを乗せ、「ありがとうよ」「俺を信じてくれたことさ、目の前でデビルマンになった俺を……」と語りかけます。これに対してミキが「どんな格好になったって、中身は同じ明くんじゃない」と変わらぬ信頼を示したところで物語はエンディングへ……。バッドエンドだった原作とは打って変わり、なんとも爽やかなラストで幕を閉じるのです。
ちなみにアニメ放送後には数々のOVAが展開されており、なかでも2000年5月に発売された『AMON デビルマン黙示録』は衝撃的でした。同作は原作終盤の時間軸をもとにしたオリジナルストーリーで、多くの読者にトラウマを植えつけた「牧村美樹惨殺」から物語が展開されていきます。
なおメディアミックス誌「月刊マガジンZ」では同題マンガが連載されていたことがありますが、世界観や設定こそ共通しているものの、ストーリーは別物でした。同OVAだけの独創的な物語を楽しめるので、ファンなら必見です。
ほかにも2018年には原作を再現しつつ、細かい設定を現代風にアレンジした『DEVILMAN crybaby』がNetflixで配信されました。作品ごとにストーリーや設定を変えてきた「デビルマン」シリーズ、そこもまたほかの作品にはない、ひとつの魅力なのかもしれませんね。