他星系との接近が地球軌道に影響を与えていた / Credit:Canva . ナゾロジー編集部

280万年前に起きたニアミスがヒントとなりました。

米国の惑星科学研究所(PSI)とフランスのボルドー天体物理学研究所(LAB)で行われた研究によって、地球の軌道が他の恒星とのニアミスによって、長期的な影響を受けていたことが示されました。

地球軌道の変化は気候変動を引き起こすと考えられており、地球の気候が太陽系外の恒星の重力によって影響を受けている可能性があります。

研究内容の詳細は2024年2月14日に『The Astrophysical Journal Letters』にて「古気候と太陽系の軌道進化の重要な推進力としての恒星の通過(Passing Stars as an Important Driver of Paleoclimate and the Solar System’s Orbital Evolution)」とのタイトルで公開されました。

目次

気候変動と地球軌道の変化は相関している280万年前に他の恒星が「オールトの雲」まで入り込んでいた

気候変動と地球軌道の変化は相関している

今から5600万年前、地球は恐竜が滅んで以降、最大の全球的温暖化に見舞われました。

この時期、地球の平均気温は5~8℃ほど上昇し、陸上では温暖化によって降水量が劇的に増大しました。

軌道モデルをもとにした研究では、当時の地球の軌道が特に偏心したことを示しています。

つまり何らかの原因で地球の「太陽の周りかた」が変化してしまい、劇的な気候変動をもたらした可能性があるのです。

地球の離心率変化の原因の1つに、他の恒星系との接近が考えられます。

太陽系の近傍には複数の恒星が存在しており、ときおりニアミス(近接遭遇)が起こります。

2018年に行われた研究では、太陽から1パーセク(3.26光年)以内を他の恒星が通過する頻度は、100万年あたり20回ほどであると報告されました。

また今後50億年あたりの近接遭遇の影響を計算すると、太陽系から1つ以上の惑星が失われる可能性が0.5%ほどあることが示されました。

これはつまり他の恒星との異常接近によって惑星にある種のフライバイが発生し、太陽系から吹き飛ばされる可能性があるのです。

あるいは確率は僅かなものの、接近した恒星が惑星を飲み込んでしまう可能性も考えられます。

このような劇的な破壊が起こらないにしても、恒星との近接遭遇は惑星軌道に劇的な影響を及ぼします。

具体的な近接遭遇の影響も調べられており、海王星が現在の離心率に変化した原因のおよそ3分の1は、過去の恒星との接近が原因であると考えられています。

地球だけが、このような近接遭遇による軌道変化や続く気候変動から無関係であるとは考えられません。

過去に行われた研究でも、地球の過去の気候変動が地球の離心率の変動と相関していることが示されています。

地球の離心率の変動は主に、太陽系内部にある木星や土星のような巨大惑星の影響を受けており、それらはミランコビッチサイクルと呼ばれています。


木星や土星などの重力の影響により地球の軌道は周期的に歪められます / Credit:カリフォルニア大学

しかし他の恒星の近接接近が起きた場合、ミランコビッチサイクルとは異なる「軌道の不確実性」の増加が起こるはずです。

これまでにも過去の惑星軌道の研究はシミュレーションなどによって行われてきましたが、他の恒星の近接接近はあまり考慮に入れられていませんでした。

そこで今回、惑星科学研究所とボルドー天体物理学研究所の研究者たちは、最近に起きた近接遭遇が、地球の軌道変化にどのように影響を与えたかを調べることにしました。

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280万年前に他の恒星が「オールトの雲」まで入り込んでいた


オールトの雲は太陽系の内外を分ける領域です / Credit:国立天文台

研究対象となったのは「HD 7977」と呼ばれる、太陽に似た恒星(G型主系列星)です。

(※地球近傍に存在する8割の恒星が太陽質量の小さな赤色矮星であることを考えると「HD7977」は比較的大きな星であると言えるでしょう)

「HD7977」は今から280万年前に太陽系と近接遭遇を起こしたことが知られており、接近によってオールトの雲の奥深くまで入り込んで、そこにある小天体を大きくかき乱したと考えられています。

研究では「HD7977」が太陽からおよそ3万1000天文単位(0.5光年)から3900天文単位(0.06光年)の範囲で通過した可能性について検討されています。


およそ5500万年前に太陽レベルの天体がニアミスした場合の軌道のズレ幅を示しています。 / Credit:Nathan A. Kaib and Sean N. Raymond . Passing Stars as an Important Driver of Paleoclimate and the Solar System’s Orbital Evolution . The Astrophysical Journal Letters .2024

上の図はHD 7977 に似た星の近接遭遇が5600 万年前に起きたと仮定した場合の、地球の軌道の不確実性を示す図となっています。

経路を示す線に幅が生じているのは、それだけ不確実性が増加したことを示しています。

結果、最も遠いケースでは地球軌道にほとんど影響がなかったものの、近づくにつれて影響が大きく増し、3900天文単位まで接近したケースでは、地球軌道に乱れを生じさせ予想される計算結果に大きな「不確実性」を及ぼしたことが判明しました。

(※3900天文単位まで接近した可能性は5%ほどと考えられています)

この結果は、これまで考えられていたよりも、他の恒星との近接遭遇が地球軌道に大きな影響を及ぼしていると結論しました。

また近接遭遇の頻度を再計算したところ、1つの恒星が100万年ごとに5万天文単位(0.79光年)以内を通過し、2000万年ごとに1万天文単位(0.16光年)を通過することが示されました。

地球が誕生したのは今から45億4300万年前です。

この数値は、過去に起きた気候変動のいくつかが、近接遭遇によって引き起こされた可能性があることを示すと共に、地球軌道を過去に向けて遡ってシミュレーションすることが如何に困難であるかを示しています。

研究者たちも論文にて「恒星との遭遇が太陽系の長期的な変化において、重要な役割を果たしていることを示した」と述べています。

太陽系のような同心円状に並ぶ美しい惑星配列は、他の恒星との深刻なニアミスがあった場合には、失われてしまうことが知られていることから、太陽系はあまり他の恒星と関わらずに過ごしてきたと考えられてきました。

しかし今回の研究では、惑星軌道を完全に変えてしまうような深刻なニアミスではなくとも、ある程度他恒星の接近があると、惑星軌道に長期的な影響を及ぼすことが示されました。

そしてこれは地球の生命にとってはかなり影響の大きい気候変動に繋がる可能性があるのです。

これまで私たちは気候変動と言えば、火山噴火や隕石衝突など地球内に原因を求めがちでした。しかし新たな発見は太陽系の外にも気候変動の原因が存在する可能性が強化されました。

現在は生命に致命的となる小惑星の接近を、宇宙機を使って逸らす実験も進められていますが、地球から遥か離れた位置で恒星が太陽系に接近するというイベントは、人類に打つ手がありません。

このような脅威に対して、人類は腹をくくるしかないかもしれません。

参考文献

Earth’s Orbit Mysteriously Altered by Chance Encounter Million of Years Ago
https://www.sciencealert.com/earths-orbit-mysteriously-altered-by-chance-encounter-million-of-years-ago

元論文

Passing Stars as an Important Driver of Paleoclimate and the Solar System’s Orbital Evolution
https://doi.org/10.3847/2041-8213/ad24fb

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。