〈兵庫・斎藤知事が失職、出直し選へ〉出馬を決断した理由は見知らぬ高校生からの手紙?「自分は県政を担える」とまるで政見放送のような自信満々の会見に県職員は報復の恐怖

違法行為疑惑を告発した者に報復したことで、兵庫県議会に退場を求められた斎藤元彦知事は、9月26日に記者会見を開き、県議会は解散せず失職した上で出直し知事選に出馬すると表明した。自分は県政を担えると自信満々の知事は、県議会が不信任決議案を全会一致で可決したことに対して「辞めるほどのことか!」と不満をぶちまけた。

「高校生が私のところに来て、手紙をいただいたんです」

斎藤知事は9月29日までに県議会を解散するか辞職しなければ30日付で自動失職することに。

議会を解散しても、出直し県議選後の議会から退場を突きつけられることは必至で、知事で居続けたい斎藤氏には解散の選択肢はないとみられていた。

一方、辞職すれば責任を認めた形になる上に、出直し選で当選しても任期は来年7月末に切れてしまう。

しかし、失職なら新たな任期は4年が保証される。知事が失職と出直し知事選を選ぶとの見方は強かった。(♯21)

斎藤氏は予想通り、26日の午前中に県議会の各会派に電話をかけて出直し選に出馬すると通告し、午後に記者会見を開いた。

19日に不信任決議案が可決された直後から方針を明かしてこなかった斎藤氏はこの会見で「解散は私の中には最初からなかった」「元々辞職という選択肢はなかった」と語り、最初から失職するつもりだったと言い始めた。

ではこの間何を悩んできたのかと聞かれた知事は「(悩んできたのは)出直し(選挙)に出さしていただくか、そこが大きなところでした」と言い切ったのだ。

そして、出馬を決断した理由を聞かれると「昨日(25日)の朝、高校生が私のところに来て手紙をいただいたんです。

部屋で読むと『辞めないでほしい』『(批判に)屈しないで未来のためにがんばってほしい』と書いてありました。グッときました。こんな自分でも期待してくれる人がいるんだと」と答え、その日のうちに決断したと説明した。

この言い分を真に受けるかどうかは別にして、斎藤氏の頭には知事職を手放す考えはゼロだったことが明らかになった。

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「道義的責任が何か、私は分からない」 

今回の問題は3月12日に知事や側近らの違法行為疑惑を羅列した告発文書を当時の西播磨県民局長、Aさん(60)が県議やメディアに送ったことに端を発する。

組織の問題を指摘した告発者を特定したり、告発者に不利益を与えたりすることは公益通報者保護法で禁じられているが、斎藤知事は発信者を調べろと県幹部に指示し、特定されたAさんは懲戒処分を受けた後、7月に自死している。

「告発内容やAさんへの報復人事の実態を解明するため県議会に調査特別委員会(百条委)が設置されましたが、ここで9月6日に証人尋問を受けた斎藤知事は、Aさんの死に道義的責任を感じないのかと聞かれて『道義的責任が何か、私は分からない』と答えました。

この言葉が決定打となり、県議会は斎藤氏には『(知事の)資質を欠いていると言わざるを得ない』とする不信任決議を全会一致で行なったのです」(県関係者)

斎藤知事はこの決議への評価を避けてきたが、26日の会見で遂にがまんができなくなった。

「百条委とかで文書問題を調査、事実解明していくことは大事と思いますが、果たしてこれが知事が職を辞すべきことなのか、というものが(自分の気持ちの)根底にあるというのが率直なところです」(斎藤知事)

不信任決議は告発内容そのものではなく、県が告発者であるAさんを法に基づいて保護せず、命を守れなかったことへの斎藤知事の態度を問題にしている。

だが知事は、真偽の確認作業も終わっていない告発を理由に辞職を迫られたとの考えを示唆し、不信任は納得できないという考えを明確にした。

さらに斎藤知事は今の状況に「大きな責任は感じている」と言ったが、何に対しての責任かは不明瞭だ。

「道義的責任は辞職につながると思っている。辞職は、私は今回しなかった」とも言い切ったため、道義的責任を認めていないことは確かだ。

こうした態度に、「再出馬する資格が自分にあるのかと心の中で葛藤はなかったのか」との厳しい質問も飛んだ。

これに斎藤知事は「厳しい選挙戦になるという中で思い悩んだが、自分の中では(もう一期)やらしていただきたいということを決めた」と返答。

出馬するかどうか悩みはしたが、それは選挙が有利か不利かの分析に迷っただけだったことをうかがわせた。

そして「私としては、これからも県政を担わしてもらうことができると思っている」とも述べ、知事としての能力をアピールした。