【対談連載】日本初のプロマインクラフター 東京大学大学院 客員研究員/常葉大学 客員教授 タツナミ シュウイチ(上)

●プログラミングは独学

「見たことのない世界」を求め続けて



 マイクロソフトともお仕事をされていますが、それはどういった経緯で?

 それはですね、ちょっとしたつてがあって、マイクロソフトが教育用のマイクラ(Minecraft Education)をお披露目するパーティーに潜り込むことができたんです。マイクラにやたらうるさい人間がいるから、と(笑)。そこでマイクロソフトの教育部門の方々とも知り合って。今、私はマイクロソフトの人間という立場ではなくて、外部の人間としてプロモーションに携わっています。というのは、つくっている人にできないことで外の人間が協力できることもありますから。あくまで1人のユーザーという立ち位置です。

 しかし大変なお仕事なのでは?

 まあ、そうは言ってもマイクラは楽しいぞ、とあちこちで言い続けているだけなんですけれど(笑)。私にとっては人生の、体の一部ですから。

 ところで、ゲーム上でワールドをつくる技術はどこで身につけられたのでしょう?

 プログラミングは独学です。

HTMLでホームページをつくってみたり、掲示板やチャットのシステムをつくったりということをやってきました。そして30代でマイクラに出会って、ここで何かつくってみよう!と思って今に至ります。デジタルの世界でDIYをやっている感覚です。家でも本棚とか机なんかは自分でつくります。既製品だと5センチ合わない、ならば自分でつくろう、という。すでにつくられたものに自分が合わせようとは思わないんです。なんか気に入らないじゃないですか。

 マイクラで新しいワールドをつくるのも、そのマインドなのでしょうね。

 そうですね。「今までに見たことのないワールドを見られる、そこで遊べる」。そんな体験を皆さんに届けられるのが喜びです。私自身、子どもの頃からものづくりをやっていたのも、見たことのない世界を求めてきたのだと思います。

 さて、今タツナミさんは教育の現場におられますが、マイクラを通じた教育とはどういうものなのでしょう?

 マイクラは、子どもたちのプログラミング教育の入り口です。自分が思い描いているものをプログラミングでどう実現するか、マイクラを通して考えることができます。教育用のツールもいろいろあります。でも実は、保護者の方にこそ積極的に物事を説くようにしています。

 それはなぜでしょう?

 子どもに勉強をさせるのなら、教育者、保護者はエンターテイナーでないといけないと思っているからです。(つづく)

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●仕事の向こうで待ってくれているみなさんを感じながら



 タツナミ氏のもとには多くの手紙やグッズが寄せられる。自分がつくるのはデジタルデータで、実際に「もの」が存在しているわけではない。しかしデジタルの世界と現実世界をつなぐこれらの手紙やグッズは、自分の仕事が現実の世界で確実に多くの人に伝わったという手応えを感じられる宝物。これからも増えていくように頑張りたいと氏は言う。

心にく人生の匠たち

 「千人回峰」というタイトルは、比叡山の峰々を千日かけて駆け巡り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借したものです。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れたいと願い、この連載を続けています。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。

奥田喜久男(週刊BCN 創刊編集長)

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。