量子チェシャネコに関する発見が次々に発表されている

2023年に発表された研究では、量子もつれと弱い観測の力を利用することで、画像転送に成功しています。

この実験では、量子的もつれ状態にある手元の粒子に恣意的な弱い観測を何度も行うことで、もう一方の手元にないもつれ状態の粒子の状態を偏らせることに成功しました。

状態が偏ることで、もう一方の粒子に対して決定的な観察を行った時の結果も、偏ることになります。

研究ではこの弱い恣意的な観測の仕組みを利用することで、ある種の0と1のようなデジタル信号を生成し、量子もつれの間に形成された見えない糸を辿って、複雑な画像データを送信することに試行しました。

この結果は、弱い観測もインチキや解釈ズレなどではなく、歴とした物理法則として機能できることを示しています。

ただ量子チェシャネコについては、反論の声も存在します。

2023年に発表された研究では、量子チェシャネコでみられる奇妙な分離現象は、観測方法の違いによるものに過ぎないとする説が発表されています。


猫は干渉計内で 3 つの異なる部分に分かれています。猫の各部分は、スピン (笑顔)、粒子 (体)、エネルギー (目) の中性子特性に対応しています。実験中に適用された弱い相互作用に対する反応は、中性子の性質が分離されているという認識につながる可能性があります。 / Credit:Armin Danner et al . Three-path quantum Cheshire cat observed in neutron interferometry . Communications Physics (2024)

しかし量子チェシャネコの研究は次々に出てきており、2024年1月5日発表された研究では、質量とスピンの2経路に加えてエネルギー自由度の性質を加えることで、3経路での量子チェシャネコを実行することに成功したと報告されました。

チェシャネコで例えるならば、もともと1匹の猫だったものを、体と口と目の3要素に分割したと言えるでしょう。

さらに2024年1月18日、カリフォルニアのチャップマン大学の研究者たちは、粒子の質量をその運動量から分離する、チェシャ猫の実験のより一般的なバージョンを提案しました。

この実験を実行するのは難しいものの、質量がある限り、ほぼすべての粒子に対して可能であるはずだと研究者たちは述べています。

同氏によれば、この実験は他の実験で広く使用されているものと同様の装置を使用しているが、大きな違いは粒子の質量の検出方法にあり、これには非常に高感度の重力センサーが必要であるとのこと。

もし十分な機器があれば、粒子の質量と性質が分離している様子を、重力波を使って一元的に確認できるでしょう。

歴史上、シュレーディンガーの猫のような思考実験も懐疑的にみられていた時期があり、量子チェシャネコに対する嫌疑も今後、長く続くことになるでしょう。

ただ量子チェシャネコが本当だったとしても、その理論を人間の役に立つ商品に応用するアイディアは、ほとんど存在しません。

現在の科学は量子の質量と性質が分離しないことを前提にしており、量子から性質だけを取り出しても、その利用方法がわからないのです。

また質量と性質を分離するという結果をどのように理解するかも問題です。

一部の研究者たちは、精度の高い測定や量子情報技術に役立つ可能性があると述べていますが、チェシャネコを搭載した商品を目にするのは当分先のことになるでしょう。

参考文献

The Quantum Cheshire Cat
https://www.tuwien.at/en/tu-wien/news/news-articles/news/the-quantum-cheshire-cat-1

元論文

Observation of a quantum Cheshire Cat in a matter-wave interferometer experiment
https://doi.org/10.1038/ncomms5492

Separating a particle’s mass from its momentum
https://doi.org/10.48550/arXiv.2401.10408

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。