ウズラも「一目惚れ」をする?恋に落ちるメカニズムが判明! / Credit: 写真AC
初めて会った相手のはずが、一目見ただけで一瞬のうちに恋に落ちてしまう。
まるで初めて会ったような感じがしない。そんな経験はありませんか?
「一目惚れ」をした時、身体の中ではどのようなことが起こっているのでしょうか。
そんな疑問に対して、生物が恋に落ちた瞬間の行動の変化を、科学的に証明した研究があります。
早稲田大学の筒井和義(つついかずよし)氏らの研究チームは、ニホンウズラのオスが、メスを見て交尾行動を行う際に、瞬間的にホルモン分泌を変化させていることを明らかにしました。
これは、ウズラも一目惚れをすることを示しています。
この研究に関する論文は、科学雑誌「Journal of Neuroscience」に2014年7月16日付けで公開されています。
目次
ウズラは見た目から恋に落ちる異性を見た時にだけ、瞬間的に生殖ホルモンの分泌が低下する
ウズラは見た目から恋に落ちる
ウズラは見た目から恋に落ちる / Credit: いらすとや
ヒトを含む多くの社会性のある動物は、5感(視覚、味覚、聴覚、嗅覚、触覚)を使って、周囲の環境から感覚的な情報を受け取り、他者とコミュニケーションを取ります。
一目惚れは、目で見た情報を脳で認識し、瞬間的に感情が動く、という反応です。これまで異性を見た時に、脳の神経回路がどのように変化するのかは分かっていませんでした。
早稲田大学の筒井らの研究チームは、ニホンウズラを使って、異性を見た瞬間の脳の神経回路を調べることで、一目惚れのメカニズムを明らかにしました。
ニホンウズラは日本を代表的とする家禽で、体長20センチメートルほどの小さな鳥です。
食卓でもおなじみの、ウズラの卵の親鳥です。
ニホンウズラは、ヒトと同じように視覚的な情報をもとにして、他者とコミュニケーションを取る生物です。
ニホンウズラのオスは気性が荒く、オス同士を同じケージで飼ってしまうと、ケンカが頻発し、どちらかが死んでしまう可能性もあります。
一方で、オスのウズラとメスを同じケージで飼うと、メスを見たオスはすぐにそっとメスに寄り添い、交尾行動を行います。
つまり、ニホンウズラのオスはメスを見た時にだけ、一瞬で恋に落ちたような状態になります。
筒井らはこの特性に注目し、ニホンウズラを「一目惚れ」メカニズム解明のための動物モデルとしました。
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異性を見た時にだけ、瞬間的に生殖ホルモンの分泌が低下する
異性を見た時にだけ、瞬間的に生殖ホルモンの分泌が低下する / Credit: 写真AC
研究者たちはまず、オスのウズラを実験用のケージに入れ、ガラス板越しに他のウズラを見せたあとで、オスの脳組織と血液を回収して、生殖に関わる物質がどのように変化するのかを調べました。
その結果、60分間メスを見たオスの脳組織では、ゴナトトロピン放出ホルモン阻害ホルモン(GnIH: 性腺刺激ホルモン阻害ホルモン)という脳の遺伝子が増えていることが分かりました。
ゴナトトロピン放出ホルモン阻害ホルモンは、脳の視床下部という場所で作られる神経ペプチドで、生物の攻撃性を抑制する働きがあります。
さらに、ゴナトトロピン放出ホルモン阻害ホルモンは、脳の下垂体から分泌される、生殖に関わるホルモンである黄体形成ホルモンの分泌を抑えて、生殖行動を抑制する作用も持っています。
つまり、オスのウズラは認識した相手がメスだった場合、攻撃性と生殖行動を一時的に抑制して、相手とコミニュケーションを取ろうとしていると考えられます。
この反応は、オスのウズラが単独でケージに入れられている時や、他のオスを見た時には観察されませんでした。
一目見た相手に対して、優しくしたい、コミニュケーションを取りたい、という欲求を感じるのは、まさに瞬間的に恋に落ちる「一目惚れ」という現象そのものですね。
一目惚れは起こりうる
一目惚れは起こりうる / Credit: 写真AC
すべての生物は、他者とコミュニケーションを取りながら生活をしています。
一方で、コミュニケーションと感情的な行動の関係性には、わかっていないことがたくさんあります。
本研究は、異性を認識した時に生じる、生物の本能的な行動のメカニズムの一部を明らかにしました。
ゴナトトロピン放出ホルモン阻害ホルモンや黄体形成ホルモンは、ヒトをはじめとした多くの野生動物に共通して存在しています。
異性を前にした時に、優しくしたい、仲良くなりたいと感じるのは、このような本能的な働きが、身体の中で起きている可能性があります。
野生動物のメスも、オラオラ系より優しい男の方が好み!ということかもしれませんね。
ヒトの「一目惚れ」には多くの要因が絡んでおり、より複雑ではありますが、基本的な構造はウズラと同じであると考えられます。
このことから、ヒトでも「一目惚れ」は起こりうる現象であり、生きていく上でのコミュニケーション行動のひとつと言えるのではないでしょうか。
参考文献
生殖腺刺激ホルモン放出抑制ホルモンは(GnIH)はニューロエストロゲン合成を促進することにより雄ウズラの攻撃性を抑制する(PDF)
http://jsre.umin.jp/14_19kan/19-14topix1.pdf
元論文
A New Pathway Mediating Social Effects on the Endocrine System: Female Presence Acting via Norepinephrine Release Stimulates Gonadotropin-Inhibitory Hormone in the Paraventricular Nucleus and Suppresses Luteinizing Hormone in Quail
https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.3706-13.2014
ライター
高橋 実可子: 大学では農学を専攻し、産業動物の研究をしていました。
現在は医療系の企業でメディカルライターとして働いています。
動物が好きで、猫3匹、小鳥1匹と生活しています。
生き物の身体の仕組み、感情や行動の変化に興味があり、本サイトでは医療と生物の記事を担当します。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。