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ADHDの遺伝的素因を持つ人は、キケン行動に走りやすくなる遺伝子も備えているかもしれません。

中国・中南大学はこのほど、「ADHD」あるいは「リスクテイク行動」の性質があると診断された人々を対象に遺伝子調査を実施。

その結果、両者の間には共通して存在する遺伝子変異が複数あることが判明しました。

これは「ADHDの人はキケン行動に走りやすく、キケン行動を取る人はADHDになりやすい可能性がある」ことを生物学的に示した成果です。

研究の詳細は2024年4月9日付で学術誌『Journal of Affective Disorders』に掲載されています。

目次

ADHDだと「キケン行動」に走りやすくなる?「ADHD」と「リスクテイク行動」に共通する遺伝子変異があった!

ADHDだと「キケン行動」に走りやすくなる?

ADHD(注意欠如・多動症)は「不注意」「多動性」「衝動性」の3つの症状を特徴とする発達障害です。

ADHDになると、注意力が散漫になったり、細かな物忘れが増えたり、興味のないことへの集中力が続かなかったり、計画性を持たずに衝動的に動いてしまうことが多くなります。

それと同時に過去の研究で、ADHD患者では「リスクテイク行動(Risk-taking behaviors:RB)」の保有率が高いことも示されていました。

リスクテイク行動とは、身体のケガや経済的損失、社会的評価の低下など、自分自身にとって潜在的な危険や損失をともなう可能性のある行動を取ってしまう性質を指します。

例えば、危険運転やギャンブル、無謀な投資、バンジージャンプやスカイダイビングといった過激なアクティビティ、健康を害するほどの過剰な喫煙や飲酒習慣などです。


「ADHD」と「リスクテイク行動」に共通する生物学的なメカニズムはあるのか?/ Credit: canva

こうしたリスクテイク行動は一見するとADHDには関係しないようにも思えますが、ADHDの主症状の一つに「衝動性」があります。

この衝動性がADHD患者を危険な行動に走らせやすくさせているのかもしれません。

しかしながら「ADHD」と「リスクテイク行動」、これら2つの性質の間をつなぐ生物学的なメカニズムは不明のままでした。

そこで研究チームは今回、ADHDとリスクテイク行動に共通する遺伝的特徴があるかどうかを調べることにしました。

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「ADHD」と「リスクテイク行動」に共通する遺伝子変異があった!

チームはまず、ADHDと診断された患者およびリスクテイク行動の性質を持つ人々の遺伝子データを集めました。

ADHDに関しては「Psychiatric Genomics Consortium」というデータバンクに登録されている22万5534名(うちADHDと診断されたのは3万8691人)を対象としています。

リスクテイク行動に関しては「Social Science Genetic Association Consortium」というデータバンクに登録されている46万6571人を対象に、ADHDと診断されてはいないが危険行動を取りやすい性質を持つと判断された人々の遺伝子を調べました。

チームが特に焦点を当てたのは「一塩基多型(SNP)」という遺伝子変異についてです。

私たちのDNAは通常、アデニン(A)・チミン(T)・グアニン(G)・シトシン(C)という4種類の塩基の並びで成り立っていますが、SNPではこの塩基の並びが1カ所だけ置き換わっている状態にあります。

例えば、Cであるはずの箇所がTになっているというように。

SNPがあると、正常であるはずの遺伝情報が変更されるため、人とは違う体質になったり、何らかの病気の発症リスクを高めることにつながるのです。


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そしてデータ分析の結果、ADHDとリスクテイク行動の両方に共通して存在するSNP(遺伝子変異)が合計で27個見つかりました。

特に「CADM2」と「FOXP2」という2つの遺伝子に共通して見られた遺伝子変異は、ADHDとリスクテイク行動の性質を誘発する上で、非常に重要な要因であることが明らかになっています。

CADM2は衝動性や冒険心といった人格特性と関連づけられる遺伝子です。

CADM2自体は誰もが持っている遺伝子ですが、ここに特定の遺伝子変異が生じるとその働き方や発現量に変化が起こり、衝動性やリスクテイク行動が増加することが知られています。

一方のFOXP2は言語発達や運動制御に関連する遺伝子です。

この遺伝子に特定の変異が生じると、言語能力や運動制御に障害が発生する可能性があります。

これまで、FOXP2の遺伝子変異がリスクテイク行動と関連する事実は知られていませんでしたが、本研究ではADHD患者にFOXP2の遺伝子変異があると、リスクテイク行動の増加につながることが示されました。


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さらにADHDとリスクテイク行動に共通する遺伝子変異は、意思決定や衝動制御に関わる脳領域で最も強く発現していることが確かめられました。

このことはADHDとリスクテイク行動の性質が脳機能の異常と深く関連している事実を改めて支持するものです。

以上の結果から、

・「ADHD」と「リスクテイク行動」を引き起こす生物学的メカニズムには、両者に共通して見られる同じ遺伝子変異があること

・ADHDの遺伝的素因を持つ人はリスクテイク行動を取りやすくなる遺伝的特徴をも持ち合わせている可能性があること

が明らかになりました。

研究者らは今回の知見を受けて「ADHDとリスクテイク行動の2つの性質を標的とした新たな治療法の開発に役立つかもしれない」と期待しています。

参考文献

Study uncovers shared genetic factors between ADHD and risk-taking behavior
https://www.psypost.org/study-uncovers-shared-genetic-factors-between-adhd-and-risk-taking-behavior/

元論文

Investigating the shared genetic architecture between attention-deficit/hyperactivity disorder and risk taking behavior: A large-scale genomewide cross-trait analysis
https://doi.org/10.1016/j.jad.2024.03.107

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部