最大の試練は夫の死。迷う中で新たに見つけた目標
明るく前向きにおにぎりと向き合う女将にも、最大の試練が訪れる。
「私が『ぼんご』を46年やってきた中で、一番辛かった出来事は主人が病気で倒れたこと。それを機に私が社長を務めるようになりました」
社長として店の全てを取りしきり「ぼんご」の魂を引き継ぐも、夫の佑さんは還暦を迎える10日前に亡くなってしまう。だが、葬儀の日も従業員たちはお店の営業を続けた。
「すべては来てくださるお客様のためです。それでも主人が亡くなって2年間くらいは店をたたむかどうか悩みました。その時期が一番辛かったですね」
ご主人が亡くなって、女将の心境にも変化が出てきた。先代が亡くなってから、「お金のための仕事はやめよう」と思い立ったという。
「それまでは扶養家族も従業員もいるから稼がなきゃと思って365日お店に行ってがんばって働いてきました。
でも、主人が亡くなってからは私自身どっちに行っていいかわからなくなって。
そんなときに知り合いから『これから新しいことを始めるよりも、今までやってきたことを土台にして考えていった方がいいんじゃないの?』と言われてハッとして。
ガムシャラに働くよりもオンとオフをちゃんと作って働いていこうと」
「やっぱり私にはおにぎりが一番」と確信した由美子さんは、次の目標に「後継者を育てる」ことを掲げた。
「弟子というわけじゃないですが、おにぎりを握りたい人の背中を後押ししてあげたいと思ったんです。それも楽しい食事の場面を作れる人たちがいいですね」
女将の店で修業をした職人の中には、独立して店を構えた人もいる。東京・板橋には「ぼんご」の名前を受け継ぐ店舗があるが、これは先代の甥が開店したものだ。
「親戚筋ですけど、彼は一生懸命。もともと、おにぎり屋をやりたくてうちに5年いたので。技術も5年学んでいます。営業のやり方はうちとは全然違いますが」
(広告の後にも続きます)
「ぼんご」店主が教える美味しいおにぎりの握り方
おにぎりといえば、家庭でも簡単に作れる日本のソウルフードだが、よりおいしく握る方法はあるのだろうか。
「おにぎりのポイントはやっぱり握り方。いえ、もう握らなくていいんです。なんでおにぎりって名前があるのだろうって突っ込まれるぐらい、握らない方がいい。
それじゃほどけるじゃないかと思われるのでしょう? そのための海苔。海苔って包装紙なんですよ」
ポイントは握らないこと。そして包装するように海苔を巻く。それによって、自宅でも簡単に“ふわふわエアリー”なおにぎりを握ることができるのだ。