後継者は? 女将が見すえる「ぼんご」の未来
由美子さんには、後進を育てるにあたり、心がけていることがある。
「私は新しく入ってきた従業員に『一人前にしてあげます』と約束したことはありませんし、何か特別なことを教えられるわけじゃない。
技術は自分で積み重ねていくしかない。お客さんとの関係も時間をかけて築き上げるもの。
じゃあ何を私が伝えられるかというと、『ぼんご』の良さ=説明できない空気感だと思っていて。それを感じてもらうことはできる。
従業員と一緒にまかないを食べて、コミュニケーションをとって信頼関係をつくっていく。そういう場だけはしっかり提供していきたいです」
厳しくも、愛情深く仲間と接する由美子さん。コロナ禍で飲食店の苦境が続く中でも、テイクアウトの客層を伸ばし、売上に影響はなかったという。
今は頼りになる従業員も育ち、営業中も少し手が空くようになった。注文を取る際、お客の顔を見ることが楽しみだと女将は笑顔で語る。
「常にたくさんのお客さんを相手におにぎりを握っていますが、お客さんはどれが自分のおにぎりかがわかるみたいで、その期待感みたいなものが厨房にも伝わってくるんです。
お客さんにおにぎりを出すと写真に撮ってあげたいくらい満面の笑みで応えてくれる。それが一番うれしい瞬間です」
以前、来店したおばあさんには「末期がんの夫に何が食べたいと聞いたら『ぼんごのおにぎり』と言っていた」なんて店主冥利に尽きることまで言われたそうだ。
「本当にやってきてよかったと思えました。だから最近、お金をもらっちゃいけないような気がしています。
前はお客さんを喜ばせたい、笑顔にしたいとがんばってきましたが、今はお客さんに笑顔をもらう側。150歳まで生きられるパワーをもらってます(笑)。
うちの従業員がみんな明るくて元気なのは、エネルギーをお客さんからいただいているからです」
女将も御年70歳。150歳まであと80年あるとはいえ、いずれ先々を見据え、後進に店を託すのか?
「まだ私も元気ですからそこまでは考えてません。それに今、お店を渡しちゃうと私がダメになっちゃいそうで(笑)。もうちょっとやりたいこともあるし、まだまだ頑張ります!」
果たして、ドラマの『おむすび』では「食」と「人」の関わりをどう描くのか。今後の展開に注目だ。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班 撮影/Soichiro Koriyama