卵黄醤油漬けが生まれたきっかけはNHK
人気メニュー、卵黄の醤油漬け。卵はおにぎりの具材で扱うには難しい食材のはずだが、どのようにして生まれたのか。
「たまたまスーパーで卵かけご飯風おにぎりを見つけて、『私もこれをやりたい!」と。でも生卵は傷むし、形にならない食材。卵黄の味噌漬けを作ってみても、難しいし時間はかかるしで断念していました。
それでもどうしても商品化したいと思ってたところにNHKの番組で『卵が臭くて食べられないという人は、1回冷凍して解凍後に食べたら臭みがなくなります』と紹介されていて。
自分でやってみたら解凍した時に、黄身だけがポコって出てきた。卵黄が金柑みたいでかわいいし『これだ!』と思いましたよ。
でもお醤油をかけたものをお客さんに味見してもらっても、反応はよくなかった。醤油に一晩もつけたら今度はしょっぱくて食べられません。
そうやって失敗しながら漬ける時間を研究していきました」
ひとつの食材から複数の具材が生まれる「たらこ」の仕込みにも手間暇をかける。
人気メニューのベスト10にも「生たらこ」「明太マヨクリームチーズ」がランクイン。トッピングベスト10にも「ホッキサラダ+焼きたらこ」や「明太子+高菜」など、「たらこ」系具材の活躍が目立つ。由美子さんも「たらこ」のレパートリーを自画自賛する。
「生たらこ単体以外にも『明太マヨネーズ』『辛子明太子』『イカ明太子』『焼きたらこ』『明太マヨクリームチーズ』など、たらこを素材で使用する人気商品も多いので、消費はとても多いです。
山のような量のたらこを、薄皮を開いて中身を出す作業をする必要があります。明太子も自分のところで作るし、全て手作業で仕込んでいます」
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米、海苔、塩もおにぎりに合うものを厳選
丁寧な仕事が伝わる具材を引き立てるのは、こだわり抜いた米だ。
「以前は東京のブレンドこしひかりを都内の米屋さんへ注文していましたが、私の実家が新潟なので、紹介してもらった新潟のお米に変更して、もう何十年も使っています」
使用されるのは新潟県岩船産コシヒカリの棚田米だ。棚田は、山の傾斜地を階段状に区切って水平に作る水田を指す。
朝晩の寒暖差が大きく、冷たくキレイな水が豊富な地域で生産される棚田米は、全てが手作業。出来上がった米を炊くと、甘味が強く、食べ応えも十分だ。
実際、ぼんごで使われる米は粒が立っていて大きい。ふっくらと炊きあがった口当たりの良いご飯は、具材がなくても旨味が際立つ。
1つに米の量はおよそ150~170g。具材を入れると200gを超える大きさだ。それでも、訪れる客は2個、3個のおにぎりをペロリと平らげる。
もうひとつ、おにぎりに欠かせないのが海苔。しかし、女将は「海苔は難しい」と話す。
「 “かさだか”といってちょっと厚みがあって、それでいて歯切れや香りの良い海苔がおにぎりに合う。でも、海苔選びはとても繊細で非常に難しい。
ですから、どの海苔を使用するかはずっと昔からお世話になってる海苔問屋さんにお任せしてます。さすが海苔屋さんはおにぎりに合う海苔の選び方をよく知ってらっしゃる」
香りを重視する海苔は、アミノ酸の含有量が多い有明産を使用。九州の一級河川・筑後川と矢部川から栄養豊富な水が流れ込む有明海で育った海苔だ。
新潟県産のコシヒカリに合う塩も日夜研鑽を重ね、塩加減を調節しているという。
「以前は普通の塩を使っていましたが、知人に沖縄の塩を勧められたので、それを使って握ってみたんです。
そしたら最初に来たお客さんに『塩変えた?』と聞かれ、ドキドキしましたね(笑)。『うん、こっちにしなさい』とアドバイスをいただいたので、もうそれでこの塩を使い続けることに決めました」
沖縄県産の塩はミネラルが豊富でクセのない旨味が特徴だ。由美子さんは指先二本分に塩を付けておにぎりを握る。米・海苔・具材・塩が奏でる絶妙なハーモニーはまさに絶品。行列が途絶えることがないのも納得だ。
後編では『おむすび』の主人公、米田結もびっくり? 右近さんが歩んできたおにぎり道について話を聞いた。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班 撮影/Soichiro Koriyama