光る植物「ホタル・ペチュニア」の予約販売が開始 / Credit:Light Bio

ファンタジー映画やゲームに登場する「幻想的に光る植物」は、今や架空の存在ではありません。

2020年に開発された「光る植物」は、光るキノコの遺伝子が組み込まれており、自ら生涯にわたって発光し続けます。

そしてこの度、アメリカの「ライトバイオ(Light Bio)」社によって開発された光るペチュニア「ホタル・ペチュニア」が、アメリカ合衆国農務省(USDA)の承認を受け、予約販売が開始されました。

夜に幻想的な輝きを放つ「ホタル・ペチュニア」は29ドル(約4300円)で購入でき、私たちをファンタジーの世界へと導いてくれます。

目次

光る植物のメカニズム光る観葉植物「ホタル・ペチュニア」の予約販売が開始!幻想世界が現実に

光る植物のメカニズム

ファンタジー作品ではよく暗闇でほのかに発光する植物の姿が描かれますが、これを現実の植物で再現しようという試みは以前からありました。

ただ、それらは発光性の化学物質を植物に付着させるなどの方法によるもので、長くても数時間しか光が持続しません。


光る植物の開発に成功 / Credit:Karen S. Sarkisyan(Shemyakin-Ovchinnikov Institute of Bioorganic Chemistry)_Nature Biotechnology(2020)

しかし、現実の世界にもホタルや発光キノコのように、光を放つ生き物が存在しています。

そこで2020年4月、国際的な研究チームは、こうした発光する生物の遺伝子を組み込むことで「外部の支援なしで生涯にわたって光り続ける植物」の開発に成功したのです。

当時開発に利用されたのはナス科の植物「タバコ」であり、これに発光性キノコの遺伝子を組み込むことで、「光るタバコ」が生み出されました。

発光タバコのメカニズムは次の通りです。


光る植物のメカニズム。いわゆるルシフェリン・ルシフェラーゼ反応。ルシフェリンがルシフェラーゼの存在下で酸化されて3-ヒドロキシヒスピジンと二酸化炭素に分解される。この3-ヒドロキシヒスピジンのカルボニル基が電子的に励起された状態にあって、それが基底状態に戻る時に光が放出される。 / Credit:ナゾロジー編集部

上の図のように、すべての植物が持つ「カフェイン酸(またはコーヒー酸)」を材料に、ホタルが光るのと同じ仕組み(ルシフェリン・ルシフェラーゼ反応)で発光させるのです。

この反応には4つの酵素が関わってきますが、タバコに発光性キノコの遺伝子を組み込むことで、それらの酵素を生成させているのです。

特に4つ目の酵素は、「燃えカス」を「カフェイン酸」へとリサイクルするため、発光自体は生涯続くようになっています。

そして材料である「カフェイン酸」がすべての植物に含まれるという事実は、すべての植物が発光植物となりえることを示唆しています。

実際、この研究を応用したアメリカの「ライトバイオ(Light Bio)」社は、タバコ属の近縁である「ペチュニア(学名:Petunia)」を発光させることに成功しました。

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光る観葉植物「ホタル・ペチュニア」の予約販売が開始!幻想世界が現実に


白い花を咲かせる「ホタル・ペチュニア / Credit:Light Bio

ライトバイオ社によって遺伝子改変されたペチュニアは「ホタル・ペチュニア(Firefly Petunia)」と名付けられています。

もともとのペチュニアは、春から秋にかけて長い間咲き続ける草花であり、多彩な色とボリュームのある花びらで花壇を賑わせてくれます。

緑の葉と白い花が特徴的なホタル・ペチュニアも同様に美しい存在ですが、他のペチュニアとは一味違います。

夕暮れ後には、月光に似た「柔らかくて美しい光」を放つのです。


夜に自ら輝く「ホタル・ペチュニア」 / Credit:Light Bio

その夜の輝きは、植物が日中に太陽からエネルギーを収集することでもたらされるため、毎日数時間の直射日光が当たる環境で育てることが大切なようです。

そしてライトバイオ社が栽培するホタル・ペチュニアは、2023年の9月に、アメリカ合衆国農務省(USDA)の承認を得ました。

USDAによると、「ホタル・ペチュニアは、既存のペチュニアと比較しても、植物害虫のリスクが増大する可能性は低い」とのこと。

この承認により、ライトバイオ社は、ホタル・ペチュニアの予約販売を開始しました。

今のところ、発送はアメリカだけに限定されていますが、一株29ドル(約4300円)であり、2024年4月には出荷が開始されます。

一方で、ホタル・ペチュニアは特許によって保護されているため、繁殖や育種(遺伝的に改良すること)は許可されていません。

発送地域が限られているものの、一般家庭に光る観葉植物が飾れるようになったというのは、非常に大きな進展だと言えますね。

映画やゲームの中でしか見ることのできなかった幻想的な光景を、現実に作り出すことができるのです。

参考文献

USDA approves stunning bioluminescent “firefly petunias” for sale
https://newatlas.com/around-the-home/bioluminescent-firefly-petunias-light-bio/

Firefly Petunia: the flower you will love the most
https://light.bio/

APHIS Issues Regulatory Status Review Response: Light Bio Petunia
https://www.aphis.usda.gov/aphis/newsroom/stakeholder-info/sa_by_date/sa-2023/rsr-light-bio-petunia

元論文

Plants with genetically encoded autoluminescence
https://www.nature.com/articles/s41587-020-0500-9

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。