レッドブル・レーシングの姉妹チームであるRBは10月のアメリカGPから、ダニエル・リカルドに代わってリアム・ローソンを起用することを発表。残り6戦で角田裕毅とコンビを組むこととなる。
これまでレッドブル陣営のリザーブドライバーを務めてきたローソンは、昨年リカルドが負傷欠場した際に当時のアルファタウリ(現RB)からF1に5戦出場した。そして今年の6戦は単なる代役ではなく、レッドブル陣営における将来的な適任者になりうるかどうか見極める“テスト”だと見られている。
では、ローソンこそがレッドブル陣営に必要なドライバーなのだろうか? motorsport.comのF1ライターが見解を語る。
■全ては時間が教えてくれる – フィリップ・クリーレン
正直なところ、つまらない答えだが、実際にやってみないと分からない。しかしローソンがどこまでやれるのか、レッドブル陣営が楽観的に待ち構えることができる手がかりはある。
現在F1グリッドにいるドライバーは全員、輝きを放つ日には類稀なるスピードを発揮する。しかしレッドブル陣営が求めているのはそこではない。リカルドもセルジオ・ペレス(レッドブル・レーシング)もペースの片鱗こそ見せたものの、どちらも全体的に安定した走りはできていない。リカルドはそれで、ペレスの後任となるチャンスを失ったが、ペレスもシート喪失の危機から逃れたわけではない。
つまりレッドブル陣営がシニアチームに求めるドライバーは、天性のスピードとマシンを限界ギリギリまで走らせることができる適応力、そしてマックス・フェルスタッペンという間違いなく最もタフなチームメイトを相手に上位で優勝争いを展開するというプレッシャーに対処できる能力を併せ持つ人物だ。
アレクサンダー・アルボン(現ウイリアムズ)やピエール・ガスリー(現アルピーヌ)の例を見れば分かるように、F1キャリアをスタートさせたばかりの若手ドライバーにとって、いきなりシニアチームに引き上げるのは毒の聖杯にもなりうる。
ただ、ローソンが挑戦に応えてくれる兆しは見えていた。
まず、昨年のオランダGPで雨の2日目からリカルドのマシンに飛び乗ったデビュー戦で、ローソンは世界を熱狂させるまでには至らなかったし、短期間での期待も向けられなかっただろう。しかしローソンは適応力を見せた。
昨年5戦の中でローソンはタフなシンガポールGPでの9位フィニッシュという結果をもたらし、レッドブル・レーシングのクリスチャン・ホーナー代表とレッドブルのモータースポーツアドバイザーであるヘルムート・マルコは非常に感銘を受けたようだ。
そしてこの夏、モンツァで行なわれたアルファタウリ/RBの2022年マシンでの評価テストはかなりのプレッシャーがかかる中実施され、ローソンは見事合格したと理解されている。
今季もリザーブドライバーを務め、忍耐強さと成熟ぶりを見せる22歳のローソンは、レッドブル陣営が要求してきたことを全てこなしてきた。
しかしアルファタウリ/RBに4年シーズン在籍し、頭角を現しつつある角田裕毅との対決は厳しい挑戦になるだろう。
■レッドブル直接起用ならリカルドへの不満は解消されたかも- アレックス・カリナカス
レッドブル陣営のPR戦略には不思議なモノがある。シンガポールGPがリカルドのF1ラストレースになることはパドックの誰もが知っていた。多くのジャーナリストたちが、「さようなら、グッドラック」と言わんばかりにリカルドの写真を丹念に選んでいた。
コンストラクターズランキング6位と賞金数百万ドルをかけてハースとスリリングなポイント争いを繰り広げていることを忘れてはならないRBにとっては、確かに気が散ることではない。しかしローソンとリカルドの交代を前もって発表していれば、「発表するまで分からない」などという馬鹿げた茶番劇をせずに済んだはずだ。
しかしレッドブル陣営にはもっと良い選択肢があった。リカルドがペレスの代わりとして、シニアチームに復帰するチャンスを棒に振ったのは明らかだ。ペレスの代わりにローソンを即座に投入し、RBとそのスポンサーをリカルドで満足させることは、クビよりもはるかに良い解決策だ。
レッドブル陣営は今、誰をシニアチームに昇格するのかという計画を立てることができる。仮にフェルスタッペンが本当にチームを離脱するのであれば、2026年に向けてローソンか角田を起用したり、メルセデスのジョージ・ラッセルのような外部ドライバーを獲得したりすることも可能だろう。
ペレスは2025年のシートもまだ確約されたわけではなく、チームリーダーを務める可能性は低い。
しかし、負傷したリカルドの代役として角田を上回った(予選では後れを取ったが……)2023年の5レースは、レッドブル陣営にとってローソンの実力を知るには十分ではなかったのだろうか?
レッドブル陣営は2022年にニック・デ・フリーズをウイリアムズから代役で出場した1戦のみで評価。翌年には当時のアルファタウリでデ・フリーズを起用した。
もちろん、それが裏目に出たからこそ、レッドブル陣営は慎重になっているのかもしれない。しかし2026年を前にして、氷のようにクールなローソンがフェルスタッペンとすぐにマッチアップしなかったとしても、少なくともレッドブル陣営はもっとすぐに気づくべきだった。不調のペレスを起用し続けているのと何ら変わりないのだ。
これまでと同じことをやっても何も得をしていない。ただ間違ったドライバーを放出しただけだ。