タコは狩りをサボっている魚を殴る / Credit:Canva,ナゾロジー編集
タコは知能が高い動物ですが、社会性はなく、主に単独で行動すると考えられてきました。
しかし、ポルトガルのリスボン大学(University of Lisbon)に所属するエドゥアルド・サンパイオ氏ら研究チームは、一部のタコが魚の群れと協力して狩りを行っていることを発見しました。
しかもタコは、グループのリーダー的な存在であり、あまり動かない魚を殴ってプレッシャーを与え、狩りに協力させていました。
海の中では、「タコ軍曹」の厳しい指導のもと、任務が遂行されていたのです。
研究の詳細は、2024年9月23日付の学術誌『Nature Ecology & Evolution』に掲載されました。
目次
賢いタコは魚たちと協力して獲物を狩っていたタコは積極的に獲物を追いかけない部下を殴って指導する
賢いタコは魚たちと協力して獲物を狩っていた
高い知能を持つタコ / Credit:Eduardo Sampaio(University of Lisbon)_Unlocking the secrets of multispecies hunting(2024)
タコには、イヌと同程度の約5億個もの神経細胞が備わっており、無脊椎動物の中では群を抜いて知能が高い存在です。
しかし、イヌとは異なり、社会性のない生物だと考えられてきました。
タコは、仲間と接触しようとせず、単独で行動することが多いのです。
しかし、タコの社会性に関する過去の研究を調べてみると、いつも単独で行動しているわけでもないようです。
例えば、エルサレム・ヘブライ大学(Hebrew University of Jerusalem)の1985年の研究では、タコが他の魚と一緒に狩りをする様子が報告されています。
ただ多くの専門家はこれを「協力」とまでは呼べず、他の生物が行った狩りのおこぼれを「つまみ食い」する程度の出来事だと考えてきました。
タコと魚たちの協力プレーを観察 / Credit:Eduardo Sampaio(University of Lisbon)_Unlocking the secrets of multispecies hunting(2024)
しかし今回、サンパイオ氏らの研究により、タコの一種であるワモンダコ(学名:Octopus cyanea)が、魚たちと役割分担して、1つの組織として協力しながら狩りをしていることを発見しました。
この研究にあたって、研究チームは、紅海で120時間潜水し、特別に設計された広角カメラで動画を記録し、タコの狩りを13回追跡。
結果その間に、「ハタ」や「ヒメジ」などサンゴ礁に生息するいくつかの魚の群れが1匹のタコに2~10匹協力していることを発見しました。
また、これらタコや魚は、それぞれが自分の役割を持っており、タコが「鬼軍曹」のように高圧的に振る舞っていることも分かりました。
(次項では、タコ軍曹が魚たちを殴っている動画を紹介します。)
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タコは積極的に獲物を追いかけない部下を殴って指導する
タコは魚たちと協力して獲物を狩っていた / Credit:Eduardo Sampaio(University of Lisbon)_Unlocking the secrets of multispecies hunting(2024)
タコと魚たちは、研究者たちが想像していた以上に、組織的に行動して狩りを行っていました。
例えば、タコは指揮官のような役割を担っていました。
動画を分析したところ、タコが狩りの中心にいて、群れが新しい場所に移動するかどうかを決定することが多いと分かりました。
タコが移動するとほとんどの魚がそれに従うのです。
また、ヒメジはタコのレーダーのような役割を担っていました。
ヒメジは群れの先頭に立って進み、狩場を偵察したり探索したりして獲物を探します。
このヒメジのおかげで、タコは狩場の中を動き回る必要がありません。
ただ動き回るヒメジを見て、獲物がいればそこにとどまり、獲物がいなければ別の場所へと移動するのです。
そして魚たちが積極的に獲物を見つけようとしない場合、タコは鬼軍曹のようにそれら「怠惰な魚たち」を厳しく指導し始めます。
なんと、動こうとしない魚たちを殴り、獲物を探しに行くよう促すのです。
働かない魚を殴るタコ。まるで鬼軍曹のよう / Credit:Canva,ナゾロジー編集
サンパイオ氏は、このタコの暴力を初めて目にした時のことを次のように語っています。
「これを初めて見た時、私は撮影中でしたが、思わず笑ってしまいました。
そのためカメラをまっすぐに構えることができず、その映像は使用できなくなりました」
そして狩りグループの中でも、ハタの一種であるアカハタは、「タコ軍曹」に最も頻繁に殴られていました。
そもそもアカハタは「待ち伏せするタイプ」の捕食者であり、動かず、自ら獲物を探しに行きません。
他の魚が追いやった獲物をいわば「盗む」ことの方が多いのです。
厳しいタコ軍曹は、そうしたアカハタの態度が気に入らないのでしょう。
動画には、タコがアカハタを殴っている様子が何度も記録されており、なんとか働かせようとしています。
タコが魚を殴る様子 / Credit:Eduardo Sampaio(University of Lisbon)et al., Nature Ecology & Evolution(2024)
それでも科学者たちは、アカハタの待ち伏せする態度が、いつも群れに迷惑をかけているわけではないことも発見しました。
アカハタはいわば「アンカー」のような役割を果たしており、群れを一カ所に留め、その海域を「もう一度探る価値があるかもしれない」という合図を送っていたのです。
彼らの獲物を待つ忍耐力が、群れ全体に貴重な情報を提供していたのです。
また、そんな彼らが「待ち伏せ」ではなく、「移動」を選択することもあり、それは群れ全体が狩場を移動すべきことを示す「非常に強力な合図」となります。
普段はアカハタを殴っているタコ軍曹も、「アカハタが移動したいということであれば、ここには獲物がいないのだろう」とアカハタの判断を高く評価するのです。
知能の高いタコは、まるで厳しい軍曹のようだった / Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部
さらに、指揮官であるタコにも、獲物を捕まえる上で有用な役割があります。
タコの柔らかい腕は、小さな隙間に隠れている獲物をそこから追い出したり、捕らえたりできるため、それが群れ全体の狩りに貢献しているのです。
ちなみに、群れで協力するとはいっても、捕らえた獲物を共有している証拠は見つかりませんでした。
群れの生物はすべて、甲殻類、魚類、軟体動物を食べる雑食でしたが、自分で捕まえた獲物を各々で食べていました。
また、「タコは群れの個体を認識しているのか?」という疑問も明らかになっていません。
タコには「お気に入りの魚」がいて、「できれば次の狩りも、その魚と一緒に狩りをしたい」と考えているかは分かっていないのです。
さらに、「このような社会的な狩猟行動は、一部のタコが学習により獲得したものなのか、それともタコに生来備わっているものなのか」という疑問も残っています。
いずれにせよ、今回の発見は、知能の高いタコが持つ社会性を解明する上で大きな一歩となりました。
今後の研究の進展にも期待したいものです。
そして今でもタコ軍曹は、海の底で部下の魚たちを厳しく指導しているのでしょう。
参考文献
Octopuses seen hunting together with fish in rare video — and punching fish that don’t cooperate
https://www.nbcnews.com/science/science-news/octopuses-hunt-with-fish-punch-video-rcna171705
Unlocking the secrets of multispecies hunting
https://www.campus.uni-konstanz.de/en/science/unlocking-the-secrets-of-multispecies-hunting
Octopus and fish join forces to hunt together
https://www.popsci.com/science/octopus-and-fish-hunt-together/
元論文
Multidimensional social influence drives leadership and composition-dependent success in octopus–fish hunting groups
https://doi.org/10.1038/s41559-024-02525-2
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部