宇宙での大爆発はどれくらいの距離にあると地球生命を終わらせられるのか? / Credit: en.wikipedia

皆さんは「キロノヴァ(Kilonova)」という天文現象をご存知でしょうか。

これは2つの中性子星が互いにぶつかることで生じる大規模な爆発です。

キロノヴァの実際例は2017年に、地球から約1億3000万光年離れた場所で観測されました。

このときは距離があったので地球に何の支障もありませんでしたが、これがもっと近い場所で起きていたらどうなったでしょう?

それを明らかにすべく、米イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(UIUC)は2017年のキロノヴァから得られたデータを分析。

その結果、キロノヴァが地球にかなり近い場所で起こった場合、地上の生命体が壊滅的な被害を受け、地球が数千年にわたって居住不能になる可能性があると示されました。

研究の詳細は2024年1月24日付で科学雑誌『The Astrophysical Journal』に掲載されています。

目次

キロノヴァが発する3種類の放射線どれくらいの距離にあると危険なのか?

キロノヴァが発する3種類の放射線

キロノヴァは、主に2つの中性子星が衝突することで発生する大規模爆発です。

中性子星とは、太陽質量の約10〜30倍の恒星が寿命を迎えて爆発した後に残される超高密度の天体で、主に太陽の1.4倍程度の質量を持ちます。

白色矮星の爆発によって生じる新星(nova)より約1000倍の明るさに達することからキロノヴァ(kilonova)と命名されました。

一方で、超新星(supernova)に比べると明るさは10分の1〜100分の1程度といわれています。

では、キロノヴァが発生すると何が起こるのか、下図を参照して見てみましょう。


中性子同士が衝突した場合のキロノヴァの図解。a:衝突の数日〜数年間、b:衝突から数千年間 / Credit: Haille Perkins et al., The Astrophysical Journal(2024)

まずキロノヴァが起きると、最初に高エネルギーの「ガンマ線バースト(GRB)」が発生します。

ガンマ線バーストは現在、宇宙で知られている中で最も光度の高い閃光現象の一つであり、キロノヴァの場合、衝突した星の両極側から2方向のジェットとして噴出します。

それに続いて、ガンマ線バーストが周囲の星間物質に衝突することで強力な「X線」が発生します。

これがキロノヴァ発生後の数日〜数年間に起こることです。

さらにその後はキロノヴァの残留物から「宇宙線(Cosmic rays)」の衝撃波が数千年にわたり広く放出され続けます。

では、これら3種類の放射線はどれくらい危険であり、またどれくらいの距離にあれば、地球はキロノヴァの影響から無事でいられるのでしょうか。

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どれくらいの距離にあると危険なのか?

研究チームは今回、2017年に観測されたキロノヴァ「GW 170817」から得られたデータをもとに調査を実施。

GW 170817は中性子星同士の衝突で発生したキロノヴァであり、地球から約1億3000万光年の遠い距離にあります。

本研究では、GW 170817の放出エネルギーを分析し、地球からどれくらいの距離にあると危険かを試算しました。

その結果、最初に放たれるガンマ線バーストの危険距離は約13光年であることが示されています。

この範囲内にあると地球はもろにガンマ線バーストの直撃をくらい、地上を守るオゾン層が破壊される危険性が高いという。

オゾン層が破壊されると、太陽からの有害な紫外線が増加し、地上の生態系を崩壊させます。

紫外線の増加は生物の皮膚がんリスクを高めるだけでなく、免疫系にも影響を及ぼし、さまざまな病気への抵抗力を弱めます。

加えて、植物の光合成能力や海のプランクトンも多大なダメージを受けるため、生態系全体のバランスが瓦解するでしょう。

チームによると、ガンマ線バーストの放出は短い期間で終わるものの、オゾン層が回復するには最低でも4年はかかるといいます。


中性子星同士の衝突イメージ / Credit: en.wikipedia

一方で、X線の余韻はガンマ線バーストよりも遥かに長く続きますが、こちらが地球に影響を及ぼすには約3光年という短い距離になければならないことが分かりました。

しかし地球にとって最大の脅威となるのは、キロノヴァの最後に放出される宇宙線でした。

宇宙線はキロノヴァの衝突地点からバブル状に全方位に向けて広がり、高エネルギーの荷電粒子を数千年にわたり放出し続けます。

チームの試算によると、宇宙線の影響は約36光年先まで届き、もし地球がその範囲内にあると、数千年にわたってオゾン層の破壊と地上への放射線暴露が続き、生命はほぼ確実に絶滅すると説明しています。


中性子星同士の衝突で発生したキロノヴァのイメージ / Credit: NASA Goddard – Doomed Neutron Stars Create Blast of Light and Gravitational Waves(youtube, 2018)

ただ私たちにとって幸運なことに、この危険距離内でキロノヴァが発生する確率は今の所ほぼゼロであることが分かっています。

そもそもキロノヴァを引き起こす中性子星同士の衝突自体が極めて稀であり、研究者いわく、1000億個の恒星のうち中性子星同士の衝突を起こすのはわずか10個程度だと推定されているという。

またキロノヴァを起こす天体は、現在のところ地球が属する天の川銀河自体に存在しないと考えられており、もしあったとしても本研究が示すように、かなり近い距離にないと地球に害を及ぼすことはないでしょう。

こちらは中性子星同士の衝突により発生するキロノヴァのイメージ映像です。

参考文献

How a ‘Kilonova’ Explosion Nearby Could End Life on Earth
https://www.newsweek.com/kilonova-neutron-star-collision-extinction-life-earth-1867388

A Nearby Kilonova Explosion Could End All Life on Earth. It’s Probably Fine.
https://www.popularmechanics.com/space/deep-space/a45714693/kilonova-explosion-could-end-life-on-earth/

元論文

Could a Kilonova Kill: A Threat Assessment
https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/ad12b7#artAbst

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。