やりがい・収入・雇用形態など、仕事を選ぶ基準はさまざま。笠原一郎さんは、34年間勤めたキリンビールを57歳で早期退職した後、ディズニーランドの清掃スタッフ、カストーディアルキャストとして8年間勤務しました。
ディズニーランドで過ごした日々を赤裸々に綴った著書『ディズニーキャストわざわざ日記』(発行:三五館シンシャ、発売:フォレスト出版)は現在、約5万部のヒットです。そんな笠原さんが語る「仕事の本質」とは?
勤続34年。大企業でのキャリアを手放し、ディズニーキャストに応募した理由
──定年間近でキリンビールを退職し、未経験のアルバイトへ。思い切った決断に思えますが、どのような経緯があったのですか?
57歳でキリンビールを早期退職することは、退職の数年前から決めていました。34年間よくはたらきましたし、早期退職による退職金の割り増し制度もあったんです。
これまでデスクワークは散々やってきたので、次は体を動かす仕事をしたいと思っていました。ノルマや納期のプレッシャーを感じずに、楽しくはたらきたいとも。
そこで見つけたのがディズニーのキャストの仕事でした。偶然読んだ雑誌に、ディズニーシーではたらく64歳の女性の記事が載っていたんです。写真の笑顔がとにかく幸せそうで、仕事を楽しんでいるのが伝わってきました。
私よりも年上の方が活き活きとがんばっている。そんな姿に背中を押されました。
それに、私自身もディズニーが好きだったんです。昔から家族でよく行った馴染みの場所ということもあり、「ここなら楽しくはたらけるかもしれない」と直感で決めましたね。
──異業種、非正規雇用、そして決して高くはない時給制の賃金。セカンドキャリアを決めるときに、これらの条件は気にならなかったのですか?
気になりませんでした。生活する上で収入はもちろん大切ですが、それよりも、あと何年生きるかを考えたとき、1度きりの人生を楽しく過ごしたいと強く感じたんです。むしろ前職とまったく違う仕事のほうが、新鮮でおもしろそうだと思いましたよ。
もちろん初めての業種で体力仕事なので、大変なこともあると思いましたが、「何事もやってみなければ分からない」と新しい世界に飛び込みました。
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8年間無遅刻無欠勤!手に入れたのは、仕事終わりのおいしいビール
──ディズニーではカストーディアルキャストして勤務されたのですよね。どのような仕事内容なのですか?
カストーディアルキャストは「歩くコンシェルジュ」として、ディズニーランド内の清掃業務やゲストの案内をします。どんなに悪天候でも業務内容は変わらないので、体力勝負の仕事ですね。
パーク内を清掃するだけでなく、ゲストに夢のある空間を感じてもらえるような会話や笑顔を心がけるのは、ディズニーランドならではだと思います。
「まずはやってみよう」と始めた仕事でしたが、入社したことを後悔したり、行きたくないと思ったりしたことはないですね。8年間、無遅刻無欠勤でしたよ。
──8年間も。カストーディアルキャストとしてのやりがいはなんでしたか?
毎日の小さな喜びが積み重なり、日々のやりがいとなっていました。道案内をする、迷子の子どもを迷子センターに送り届ける、混み合う優先トイレの待ち時間が苦にならないように、ゲストと会話をする……。そうした中で1日に1度でも、ゲストからの感謝の言葉や温かなやりとりがあれば、それが明日へのモチベーションになっていました。
仕事のモチベーションとは、こうした小さなことの積み重ねと繰り返しの中で生まれるものだと、改めて実感しましたね。
──充実したキャスト生活だったのですね。辛いできごともありましたか?
もちろんです。目を背けたくなるような仕事もたくさんありましたよ。動物の死骸や汚物の処理、ポイ捨ての後始末、炎天下や極寒での外仕事など、あげたらキリがありません。
中には耐えられない人もいるかもしれませんが、私は「デスクワークやノルマから解放されたい」「体を動かしたい」「毎日小さな喜びや楽しみを感じたい」という思いで転職したので、辛い業務がストレスになることはありませんでした。
私は、仕事から帰って飲むおいしいビールがあれば幸せなんです。ささやかな幸せかもしれませんが、「こんなふうに仕事がしたい」という自分なりの軸を持って、実現できる場所に飛び込んだからこそゲットできた、何にも代え難い“おいしいビール”だと思っています。