夢の国でもキリンビールでも、仕事は大部分が辛いもの。ハッピーなことばかりは起きない
──ディズニーランドの華やかさからは想像できない業務もあったのですね。目の前の現実にくじけることはありませんでしたか?
なかったです。そもそも仕事とは、大部分が辛いものだと思っているんですよ。毎日はたらいていて、ハッピーなことばかりが起こるなんてありえないわけで。仕事が楽しければ理想的ですが、そんな仕事に巡り合える人はそう多くはない気がします。
自分が取り組む仕事の中に、どれだけ喜びを見出して達成感を得られるか。これは、ディズニーランドでもキリンビールでも変わらない、世の中のすべての仕事に言えることだと思います。
──キリンビール時代に「給料には我慢代も含まれている」と言われていたそうですね。
はい。上司からの言葉です。どんな仕事も、最初は辛く感じるかもしれないけれど、合う合わないはすぐには分からない。ある程度は辛抱することが大切だと教えられました。目の前の仕事に真剣に取り組んでみて、初めて小さな喜びや達成感が見つかるんですよね。だから、カストーディアルキャストとしての仕事も、「最低でも1年間は絶対にやる」と決めていました。
ディズニーランドには10代から60代まで幅広い年齢のキャストがいたので、仲間とは仕事についてよく話しましたね。これまでの経験をもとに、20代のキャストとキャリアについて話したり、学生の卒業後の進路や就職活動についてアドバイスしたり。もちろんキリンビールを受けてみるようすすめることもありましたよ。でも結局誰も受けなかったかな(笑)
──新しい世界に飛び込みたいと思いつつも、ためらう人は多いと感じるのですが、笠原さんならどのようなアドバイスをしますか?
「案ずるより産むが易し」という言葉を贈りたいです。こんなふうになりたい、こんなはたらき方をしてみたいという理想があるのなら、思い切って行動するが吉です。
仕事には辛抱が必要だと話しましたが、だめなら次があるのも事実。世の中にはブラック企業なるものが存在し、自身の正義感や信念に反する価値観の職場もあります。人間関係がどうしてもうまくいかないことだってあります。そんなときは別の場所を探せば良い。
私もカストーディアルキャストとして一生懸命がんばってはみたものの、自分に合わない環境だと感じていたら、きっと辞めていたと思います。人が活躍できる場所はいくつもあり、チャレンジは何度でもすれば良いと思います。
──57歳でカストーディアルキャストとなり、65歳で定年退職。その後69歳で書籍を出版。現在71歳の笠原さんの、今後の展望を教えてください。
これからも自分の気持ちに素直に、好きなことをして生きていきたいです。その核となるのは「人・本・旅」。
これは、2023年まで立命館アジア太平洋大学の学長を務めた、出口治明(でぐちはるあき)さんの言葉です。多くの本を読み、いろいろな場所に行って刺激を受け、たくさんの人に会って学びを得たいと。私もそうしたいと思っています。
昨年は、55年ぶりに中学生時代の友人に会いに山口市に行きました。来年は兵庫県で開催されるキリンビール関西地区のOB会にも顔を出したいと考えています。1度きりの人生なので後悔のないように行動して、活き活きと残りの人生を楽しみたいですね。
(文:徳山チカ 編集:いしかわゆき 写真提供:笠原一郎)