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日常の怖い話として、穀物類は適切に保存しないとダニなどの小さな虫が湧いてしまい、気づかずに大量に食べてしまうと聞いたことがあるでしょう。

小麦粉などの食品中に湧いたダニを誤って食べてしまい、アレルギー症状を起こす事例は、実際過去にいくつも報告されています。

そして今回、東邦大学より、オートミールに潜んでいた「ヒラタチャタテ」を誤食し、アナフィラキシーを起こした患者の症例が日本で初めて報告されました。

ヒラタチャタテは室内環境に広く生息するごく平凡な虫であり、日本全国どこにでも存在しています。

今後、ヒラタチャタテがアレルギー症状を引き起こす新たな「アレルゲン(抗原)」として注目されるかもしれません。

研究の詳細は2024年8月10日付で医学雑誌『The Journal of Dermatology』に掲載されています。

目次

アレルギー反応が起こる仕組みオートミールに混じった「ヒラタチャタテ」で国内初のアナフィラキシー

アレルギー反応が起こる仕組み


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そもそもアレルギー反応とは、私たちの体に備わっている免疫システムが過剰に働いてしまうことで起こるものです。

免疫システムの過剰反応は個々人の体質や持病によって異なり、本来は危険のない異物に対して敏感に反応してしまいます。

アレルギーの原因となる物質が「アレルゲン(抗原)」です。

アレルゲンが体内に入ると、免疫システムが異物とみなして排除しようとし、「IgE抗体」という物質を作り出します。

このIgE抗体ができた後に再びアレルゲンが体内に入ると、IgE抗体がそれにくっつき、免疫細胞の一種である「マスト細胞」からヒスタミンなどの化学伝達物質が放出され、アレルギー反応が起こるのです。

ダニの誤食で起きる「パンケーキ症候群」

食品に混入した害虫を誤って食べてしまっても、何らかの健康被害が発生することは比較的稀です。

しかしながら日本では主に、ダニの誤食によって引き起こされるアレルギー症例がいくつか報告されています。

例えば、2010年に報告されたケースでは、当時28歳の女性が開封後に常温保存していた「お好み焼き粉」でもんじゃ焼きをしたときに強いアレルギー反応を起こしました。

食べている最中に喘息のような症状が起こり、15分後には嘔吐。30分後には腹痛を起こして緊急搬送されています。

病院に着く頃には意識がもうろうとしており、顔の腫れや全身の紅斑(こうはん)が起こっていました。

点滴治療を受けた後、女性の症状は2時間後には改善しています。


もんじゃ焼きに混入したダニでアレルギー反応が起こった/ Credit: canva

女性が食べたお好み焼き粉は数カ月前に購入されたものであり、中を調べてみると1グラム当たり50匹ものコナヒョウヒダニが見つかったという。

アレルギー反応が起きた原因を特定するため、女性のアレルギー反応を調べたところ、未開封のお好み焼き粉に対しては陰性でしたが、ダニのアレルゲン(抗原)に対しては強い陽性を示しました。

このことから「女性はダニを誤食したことによるアナフィラキシー反応(※)を起こした」と断定されています。

(※ アナフィラキシーとは、短時間で全身に発症する強いアレルギー反応のこと)

同じ症例は他にも日本国内で数十例知られており、その大半はお好み焼き粉や小麦粉、パンケーキミックスなどに混入したダニが原因です。

粉物に多いことからこの症状は「パンケーキ症候群」などと呼ばれています。

このようにダニの誤食によるアレルギー反応はよく知られていましたが、新たに報告された症例は「ヒラタチャタテ」というアレルゲンとしては注目されてこなかった平凡な虫によるものでした。

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オートミールに混じった「ヒラタチャタテ」で国内初のアナフィラキシー

2021年3月、東邦大学医療センター大橋病院に一人の患者さんが運び込まれました。

報告によると、患者さんはオートミールを食べた30分後に全身に紅斑が現れ、下痢や嘔吐が起こり始めたという。

来院時には他に、頻脈(ひんみゃく:脈拍数が異常に多い状態)や口元のチアノーゼ(酸素不足で皮膚が青っぽく変色する症状)が見られたことから、アナフィラキシー反応を起こしていると診断されました。

医療チームは原因を特定するため、患者さんのアレルギー反応を調べましたが、新品のオートミールでは陽性反応が出ませんでした。

となるとオートミールを食べたこと自体が問題ではないことになります。

そこで患者さんが実際に食べたオートミールを顕微鏡で観察した結果、「ヒラタチャタテ」の混入が確認されたのです。


ヒラタチャタテによるアレルギー反応(左)とオートミールに混入したもの(右)/ Credit: 東邦大学 – オートミールに混入したヒラタチャタテの摂取によるアナフィラキシーの症例を日本で初めて報告(2024)

ヒラタチャタテ(学名:Liposcelis bostrychophila)は室内環境において最もよく見つかる小さな虫で、日本全国にいます。

体長は1ミリ弱で、穀物やカビなどの餌があり、適度な温度と多湿の条件が揃うと、大量に繁殖します。

ヒラタチャタテはどこにでもいる平凡な虫であり、これまでは何らかのアレルギー反応を起こす「アレルゲン(抗原)」としてはほとんど注目されてきませんでした。

ところがチームが新たに調べたところ、ヒラタチャタテにのみ特異的に存在すると見られる抗原「Lip b 1」を検出。

さらに患者さんの血液を調べると、Lip b 1と結びつくIgE抗体が見つかったことから、今回のケースは「オートミールに混入したヒラタチャタテの経口摂取がアナフィラキシーの原因である」と結論づけられたのです。

この症例は日本国内では初となりますが、海外では2例が確認されています。

いずれも同じくオートミールに混入していたことから、チームはヒラタチャタテの誤食で生じるアレルギー反応を新たに「オートミール症候群」という名称で呼ぶことを提唱しました。

「オートミール症候群」を防ぐには?

ヒラタチャタテは私たちの身近に普通にいますから、今回の患者さんのように、Lip b 1抗原に結びつくIgE抗体を持つタイプの人であれば、誰でも「オートミール症候群」を引き起こす恐れがあります。

特にヒラタチャタテはハウスダストが蓄積した室内環境で発生しやすいため、たとえ製造の段階で商品に混入するなどの問題が起きていなくても、自宅で開封した際に商品に入り込んで、保存中に繁殖してしまう恐れがあります。

研究チームによると、ヒラタチャタテは10℃以下の温度や55~65%以下の湿度では生育できないとのことなので、例え常温保存が可能な食品であっても、基本的には冷蔵保存することが望ましいようです。


常温保存が可能なものでも冷蔵保存するのが安心/Credit:canva

それから最も重要な点はオートミールや粉物食品を保存する際は、ジップロックに入れたり、しっかり開け口を閉じるなどの管理を怠らないことです。

チームは今回の知見を受けて「アレルギー疾患の予防と室内環境管理に新たな視点を提供し、公衆衛生の向上に貢献する」ことを期待しています。

室内の掃除や定期的な換気を怠っている人は、特にこうした問題に注意しましょう。

参考文献

オートミールに混入したヒラタチャタテの摂取によるアナフィラキシーの症例を日本で初めて報告
https://www.toho-u.ac.jp/press/2024_index/20240909-1401.html

ダニを誤食して起こるアレルギー症状(農研機構)
https://www.naro.affrc.go.jp/org/nfri/yakudachi/gaichu/column/column_032.html

元論文

A clinical case of anaphylaxis after eating oatmeal contaminated with booklice (Liposcelis bostrychophila)
https://doi.org/10.1111/1346-8138.17419

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部