「まず安全」を確立するための壁は高い
話を戻すと、自動車という市場では、日本はトヨタ・ホンダ・日産など世界的メーカーを有する自動車大国であるが、EVでは後進国でもある。自動車に対する評価はとてもシビアで、EVを受け入れる姿勢もまだできていない。
こうした日本の特性を踏まえると、「ありかも!」でアピールするBYDの広告は、話題にはなったものの、日本のユーザーの心を掴むには不十分と言える。
日本での普及を進めていくには、完全に「あり!」と思わせなくてはいけない。
BYDは長澤まさみという稀代のタレントを広告起用しながらも、ブランドイメージを先行させたり、オンライン販売を強化したりするのではなく、地道にディーラーを拡大していく方針を取っている。
2025年末までに100店舗体制の構築を目指しており、製品力に自信のあるEVを店舗で試乗してもらい、品質や安全性を納得してもらいながら、じっくりEVを広めていく戦略だという。
この戦略自体は適切だと考えられるが、「まず安全」を確立するまでの道のりはとても長いだろう。
なによりも日本人には、中国ブランド全般へのネガティブなイメージや先入観があるからだ。「BYDが世界で評価されている」と聞いても、その先入観はなかなか覆らない。
更にメディアやSNSでは、ネガティブ情報の方が目立ちやすく広がりやすい。また、完璧主義の日本の消費者は、基本的にネガティブ情報を探して気にするクセがついている。
EV自体が「まず安全」を確立するための壁は高く、中国ブランドのBYDの前にはさらに高い壁が立ちはだかっている。
あるいはBYDが日本市場に定着することができたのであれば、中国ブランドへのネガティブなイメージが払拭されたことの証明になるかもしれない。
文/永井竜之介
写真/shutterstock
※1 日経クロストレンド「長澤まさみCMの中国BYD、大当たり 来店客86%増で爆売れ現象」を参照。
※2 36Kr Japan「中国BYDの高コスパEVは「米国には作れない」 車両の分解で明らかにされた驚きの理由」を参照、および引用。
※3 日経ビジネス「BYD、日本車の牙城アジアを席巻する世界最大級のEVメーカー」