日本には111個もの活火山があり、これは世界にある活火山の7 %を占めています。
そのため日本に住んでいれば、誰もが頭に思い浮かぶ身近な火山があるはずです。
そんな近くの火山について、「活火山と聞いたことあるけど、あれっていつか噴火するの?」と不安に思ったことがあるでしょう。
台風は危険が迫れば気象衛星の画像から目で確認できますし、地震は予測が難しいもののその原理はプレートの歪みにあることを私たちは知っています。
しかし、火山がどうやって生まれ、どういうタイミングでいつ噴火するのか?活火山と死火山は何が違うのか?こうした疑問についてはあまり良く知らないという人がほとんどではないでしょうか?
実際火山は非常に研究が難しい存在です。
人間の人生というスケールではまったく推し量れないほど非常に長い活動周期。見ることのできない深い地下に潜むマグマの状態。
それを歴史の史料や、火山から吹き出た降下堆積物をヒントに推理していかなければならないのです。
日本には警戒しなければならない活火山がいくつもありますが、火山学者たちはわずかな降灰からどうやって火山の状態を理解しているのでしょうか?
富士山のような巨大な火山がもし噴火した場合、人々の生活にはどのような影響が予想されるのでしょうか?
今回はそんな身近だけれどよく考えると知らないことだらけの火山について、産業技術総合研究所の地質調査総合センター 活断層・火山研究部門副研究部門長 石塚 吉浩さんにお話を伺いました。
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目次
どういうきっかけで火山学者になるの?観光地でもあり生活道路でもある、火山防災の難しさ火山の動向を探るための噴火後調査は危険と隣り合わせまるで探偵!研究者が火山灰からわかること富士山はまだ若い!火山の一生ってどうなっているの?火山学者から見ても美しい富士山の魅力
どういうきっかけで火山学者になるの?
――まず私たちからすると火山学ってかなり特殊な分野で、高校生くらいまでの間に触れる機会ってほとんど無いと思うんですね。
なので火山学者ってどういう人がなるんだろうっていう疑問があるんですが、石塚さんが火山学者になろうと思ったきっかけって何だったのでしょう?
石塚: 大学では地質学を専攻していました。4年生に進学する時に、火山をやっている研究室に進みました。
火山の研究に進んだきっかけは2つあって、1つは単純に山が好きだったからです。
もう1つは、当時、雲仙普賢岳が噴火していた時に、大学の先生が現場に行かれていて最新の情報を講義で話してくれたんです。その話しが非常に興味深くて、この先生がいたというのが火山の研究室に進んだ理由ですね。
―― 先生の存在が大きかったんですね。
石塚:先生の存在は、いろんなところで皆さんそうだと思いますが、大きいと思います。
学生っていうのはまっさらですから、面白い講義をされるとか、学生と深く付き合ってくれる先生と出会うことで、染まっていく部分があると思います。
―― 学生時代にフィールドワークに行かれたことはありますか?
石塚: 4年生から卒業研究を始めて、私は北海道の利尻山をフィールドに選んで、ずっとフィールドワークをやっていました。
―― 火山のフィールドワークでは、登山のテクニックが必要だと思うのですが、石塚さんはもともと登山がお好きだったということで、そこまで苦労はなかったんでしょうか。
石塚:私の場合は、学部の若い頃に、山スキー部の団体に入っていまして、真面目な授業にはあまり出ずに、ずっと山を登っていました。
学生としてはあまりよくなかったかもしれませんが、登山の技術は身につきましたね。
――他の火山研究者の方もそういう方が多いですか?
石塚:相対的にみれば、火山研究者には山系団体出身者が多いですね。
しかし昔は公務員試験を受けて入省し、先輩から実地で訓練を受けるルートもありました。
最近はそうした徹底した訓練はなくなり、研究者個人の技術に合わせて適切なフィールドを選ぶようになっています。
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観光地でもあり生活道路でもある、火山防災の難しさ
――先ほど雲仙の噴火の話が出ましたが、雲仙が温泉地として有名であるように火山のある場所は温泉やスキー場、登山スポットといった観光要素が強いですよね。
しかし、火山活動が活発化してくると、一時閉鎖などの処置が取られますよね。
こういう危険な地域でありながら、同時に観光地であるという2面性を持つ場所を調査するのは、気を遣う部分もあって難しさがあるように感じますが、こういう部分で研究していく上で大変なことってありますか?
例えば噴火警戒レベルを、どうやって決定するのかって気になっているんですが。
石塚:まず、火山の噴火警戒レベルは気象庁が決めます。
レベル3になると火口周辺が立入禁止になり、レベル4で高齢者等の避難、レベル5で全住民の避難となります。
ただし、実際の避難の指示は自治体の首長が出します。
――では研究者はあくまでデータを集めて示すだけで、避難の判断は行政がするのですね。
石塚:そうです。私たち研究者は、データを基に科学的に噴火の可能性を評価し、気象庁がそれを警戒レベルに反映させます。その後の避難判断は自治体が下すことになります。
観光地としての難しさは、噴火の兆候があれば当然避難が必要になり観光に支障が出ます。
一方で、噴火しなかった場合にいつ解除するかが難しい問題です。地震や山体の膨張など前兆現象があっても、必ずしも噴火に至るとは限らないためです。
有珠山の2000年の例では、数日前から地震が活発になり避難となりましたが、その後地震の回数が減ってきた頃に噴火しました。しかし、その後の噴火の状況を見極めながら、段階的に避難解除が行われました。
このときは、データに基づいて適切に対応できた良い例と言えます。
――確かに、観光面だけでなく、地元住民の生活への影響も大きいですよね。完全に予測できないリスクを抱えながら、どう対応するかは非常に難しい課題だと思います。
例えば産総研でも調査を行っている草津白根山の場合、国道が火口のすぐ近くを通っているので、火山活動が活発化するとすぐに通行止めになるんですよね。
石塚:そうなんです。草津白根山では、火山活動のレベルに応じて、国道に規制が敷かれます。
例えば、火山性地震が増えたり、山体の膨張が観測されたりすると、レベル2に引き上げられて、国道が通行止めになることがあります。
―― レベルの判断は、気象庁がデータに基づいて行っているんですよね。研究者の立場から見ると、レベルの引き上げ基準などについては、どう感じられますか。
石塚:そうですね。気象庁では、過去の事例なども参考にしながら、レベルの基準を設定しています。
ただ、火山活動の評価には、さまざまな不確定要素が伴うので、判断が難しい場合もあるでしょう。観測データ上は活発化しているように見えても、実際の現象としてはそれほど顕著でないケースもありますからね。
規制をかけるタイミングは、社会的な影響も考慮しながら、慎重に見極める必要があると思います。かといって、安全サイドに倒しすぎると、今度は住民生活への支障が大きくなる。そのバランスを取るのは、なかなか難しい課題だと感じています。
―― 火山防災は本当に難しいのですね。
石塚:そうですね。火山の防災対策は、科学的なデータだけでは判断しきれない部分もあります。
火山の専門家と、行政、住民が連携しながら、火山との賢明な付き合い方を模索していく。そういう地道な努力の積み重ねが、火山防災には欠かせないのだと思います。