北海道を代表する大型哺乳類エゾヒグマ。
本州生まれの筆者はツキノワグマならちょいちょい見聞きするものの、ヒグマはあまり知らない。本物のヒグマを見てみたい。どれくらい大きいのか体感したい。吠え声を聞いてみたい。とはいえ「山道でばったり」は御免だ。
北海道には、広大な森の中で自然に近い姿を見られるヒグマ特化のサファリパークがあるという。帯広市から車で約1時間、「サホロリゾート ベア・マウンテン」に行ってみた!
・「サホロリゾート ベア・マウンテン」
15ヘクタールもの広い敷地で全11頭のヒグマを公開しているベア・マウンテン。
見学方法は2種類。徒歩による「遊歩道コース(大人2200円)」と、バスに乗ってヒグマの飼育エリアに入る「ベア・ウォッチングバスコース(大人3300円)」がある。
理由は後述するが、「ベア・ウォッチングバスコース」が圧倒的におすすめ。乗り物酔いするなど特別な事情がない限り、絶対に、絶対にバスに乗るべし、とお伝えしておきたい。
チケットを購入したら、運行時刻表に従ってバス停で待つ。ほどなく「装甲車か!」と思うような頑丈な装備をまとったバスがやってきた。窓は金網でがっちりガード、ホイールキャップも見たことのない形状だ。これだけでもヒグマの強さが感じられる。
バスルートは全周約1.2km。遠隔操作で開閉される重々しい金属の二重ゲートを通過していく。これジュラシックパークで見た!!
ゲートの内側はオフロード。車両すれすれに深いヤブが迫り、身体が左右に揺れるほどのデコボコ道を巧みに走行していく。開始早々、北海道の森林を感じられて大迫力だ。
さっそく第一村人……ならぬ第一ヒグマ発見!!
バスは両サイドに座席があるが、ヒグマポイントでは十分な時間をとって停車してもらえる。席が空いていればヒグマがいるほうに移動も可能だし、後部座席からも見られるようにバスの位置を調整してくれるなど、気配りが行き届く。
この風景にすでに感動! というのも、水が流れているのはコンクリートで固められた水路やプールではなく、自然のせせらぎ。普段はバスの気配がするとすぐに隠れてしまう子が、今日は姿を見せてくれたという。
大きくて肉厚で、丸々としたシルエットにびっくり。ひょろりとしたツキノワグマとはまったく違う! 言うまでもなく、ヒグマは日本最大の陸上動物だ。水に鼻をつけ、フンフンと一生懸命なにかを探している。
続いてのスポット。2頭いた!
ケンカもせず仲良く過ごしているのは、園内にいるクマの多くが人間の手を介して育ったからだそう。
奥には柵に囲まれた別ゾーンもあり、施設慣れ訓練中のクマたちがいる。施設生まれの個体とは異なり、野性から保護した個体はやはり縄張り意識が強く気が荒いのだという。
土のくぼみで丸まって寝ている子を発見!
と自分の手柄のように言っているが、実際にはガイドも兼ねる運転手さんが見つけて教えてくれる。「どの個体が誰」と完璧に把握しており、性格や家族関係などキャラクター紹介をしてくれる。
ちらりと薄目でバスを見たけれど、また眠ってしまった。愛嬌があって感情豊かそうで、でも人の命なんて一撃で奪える強い生き物。アイヌの人々が「キムンカムイ」、つまり山の神だと思って尊敬したのもよくわかる。
過去に三毛別ヒグマ事件復元地を訪問したのだが、そのときにも「怖い」「危険」「愛らしい」などなど、ヒグマに対する一見矛盾するような感情が不思議に同居している現地の様子を見た。
ぬいぐるみのような可愛らしさ、神々しさ、恐ろしさ……相反する気持ちが同時に沸き起こり、「すごい」としか言いようがない。
クマたちは園内を自由に歩いているので、季節や天候によってどこにいるかわからない。けれど、それぞれの個体にお気に入りスポットがあるほか、おやつのタイミングにはじっくり観察できる。行動パターンを把握しているバスのエスコートは完璧だ。
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・観察施設「ベアポイント」
バスは園内中央の「ベアポイント」に到着。帰路もバスに乗ることができるが、ここで徒歩に切り替えるのがおすすめ。
ベアポイントはガラス張りの観察施設で、もっとも間近にヒグマを見られるスポットになっている。筆者が到着したときには2頭がトウモロコシをもらっていた。池の中をザブザブと活発に動き回るヒグマは、いくら見ても見飽きない。
巣穴を模した「ヒグマの洞窟」や、資料コーナー「ヒグマ展示室」もあり、中でもヒグマに遭遇したときの対処法は必見! 距離別、人数別、シチュエーション別など詳細に解説してあった。ここまで具体的で実践的な対応マニュアルは見たことがない。
「逃げ場がないときは強気に対応」「ヒグマの突進の多くは威嚇」「走らない!」「落ち着いて!」など、常人の精神力では「できるかぁ!」と言いたくなる行動ばかりだが、とにかく熊害対策の基本は「遭わないこと」。とくに人間の残した食べ物などが被害を引き寄せている事実には考えさせられる。
最初に述べた「遊歩道コース」はこのベアポイントにつながっていて、歩いて入口に戻ることができる。距離はおよそ370mで、体力に自信のない人でも大丈夫。
飼育エリアを見下ろす形で遊歩道が伸びていて、ヒグマを探しながら歩いて行く。
ところが。
足元に広がるのは、草木がうっそうと茂った森!
「考えるな、感じろ」……のような飼育員さんからのワンポイントアドバイス(嘘です。正しくは「見るのではなく探す」とあった)が各所に掲示されているのだがヌカにクギだ。どこにヒグマがいるのか、そもそも視界内にヒグマが存在しているのか、シロウトにはまっっったくわからない!
まさに自然のままの森の雰囲気で、クマたちは自分の好きなところで過ごしている。都合よく人間の観察しやすいところに出てくるわけではない。逆説的だけれど、これがとても好印象だった。
筆者は動物園や水族館も好きなのだが、訪問後に複雑な気持ちになってしまうことも多い。自分が飼っている猫にさえ「本当に幸せかなぁ」と思ってしまう。だからせめて、飼育施設ではアニマルウェルフェアに最大限の配慮があって欲しいと祈る。
帰路には1頭のクマも見ることができなかったのだが、それがとてもとても満足だった。