ここに映っている3匹は全てか二ではなくヤドカリの仲間が「カニ化」したもの。なおサムネに上げた問題の答えは上段の真ん中のタラバガニ以外は全て遺伝的にカニである / Credit:Bio Essays
地球上で生きるにあたって、カニの姿はコスプレ衣装のようなものかもしれません。
3月9日に『Bio Essays』に掲載された論文では、甲殻類のカニ型へのフォームチェンジ(カニ化)が生命進化の過程で計5回、そしてカニ型から非カニ型への変化(脱カニ化)が計7回起きていることが示されました。
さらにそれぞれ全てが独立した進化イベントだったため、地球では「カニのような非カニ」と「カニっぽくないカニ」が各地で出没するようになったのです。
しかし、どうして甲殻類の形態変化はそこまで敷居が低いのでしょうか?
目次
「カニ」への進化を繰り返した甲殻類の系譜が判明!先祖が既に曖昧だったカニとは
「カニ」への進化を繰り返した甲殻類の系譜が判明!
こんなにカニっぽくても実はヤドカリの仲間である / Credit:Canva
カニ化を語るにあたって見逃せないのが、タラバガニとハナサキガニです。
タラバガニやハナサキガニは、上の図を見てわかるように、形はどうみてもカニです。
しかし遺伝的には、ヤドカリの仲間となっています。
これは、タラバとハナサキの先祖がヤドカリの形を捨てて、カニ化した結果です。
このような異なる種が似た形態に進化すること(収斂進化、しゅうれんしんか)は生物の世界ではそれほど珍しくはありません。
フジツボは甲殻類の仲間 / Credit:Canva
例えば岩やテトラポッドにくっついているフジツボはどうみても貝(実際ダーウィンが気付くまで貝だと思われていた)ですが、詳しく調べるとエビやカニと同じ甲殻類であることがわかりました。
また海底に固着して海水からプランクトンをこし取って生きているホヤも、見かけだけなら貝やサンゴのお化けといった感じですが、私たち人間と同じ脳を持つ脊索動物です(ただし脳があるのは幼生だけで大人になって固着すると脳も脊索も退化してなくなる)。
ホヤには「大人スイッチ」があると判明! 刺激されると成体になっちゃう – ナゾロジー
ホヤは幼生のころは脳と脊索があるが成体になって固着すると脳も脊索も失ってしまう / credit: Canva
このような収斂進化が起きるのは、フジツボやホヤの先祖にとって甲殻類や脊索動物として自由に移動しながら生きるよりも、貝や固着生物として生きるほうが生存率が高かったからです。
タラバガニやハナサキガニがカニの形をしているのも同様に、ヤドカリとしてエビっぽい外見で生きるよりも、カニの姿で生きるほうが繫栄できたからとなります。
しかし今回、アメリカ、ハーバード大学の研究者たちによって、カニ化および非カニ化のフォームチェンジは、貝化や固着生物化よりも圧倒的に人気かつ可逆的であることが示されました。
脱カニ化したカニとカニ化したヤドカリが存在する / Credit:Bio Essays
地球上に存在する様々な甲殻類の外観の進化を調査した結果、カニとヤドカリ系統において、カニの姿を手に入れるカニ化が5回、カニの姿を捨てる非カニ化が7回も起きていることが明らかになったのです。
しかもこれら合計12回の形態進化は、全てが遺伝的に独立したイベントでした。
つまり当事者となった甲殻類(カニとヤドカリ)たちは独自にカニの姿を5回「発明」し、カニ型からの脱却を7回「初体験」したのです。
この結果は、地球の特定の甲殻類(カニとヤドカリ)にとってカニ型は出入り自由な高い融通性があることを示します。
問題は、なぜこのような高い融通性が存在するかです。
鳥が空を飛べるのは共通祖先1度の進化で翼(あるいは翼の元)を獲得したからであり、人類の二足歩行能力も共通の先祖が単一の進化で獲得したものです。
いくら地球生命にとってカニ型が融通性が高いものであっても、12回もの独立した出入りは異常です。
(広告の後にも続きます)
先祖が既に曖昧だった
カニは2億5000万年前から存在する / Credit:Bio Essays
なぜ特定の甲殻類はカニ化と脱カニ化を気軽に行えるのか?
この謎を突き止めるあたって研究者たちは甲殻類の化石を調べると共に、経験と直感に頼っていたカニ化の再定義をおこないました。
その結果、カニとヤドカリの共通の先祖は、完全なカニ化こそしていなかったものの、カニ化直前の曖昧な存在であったのだと結論づけました。
そのため子孫となったカニとヤドカリの両方に、カニ化の発明と放棄による先祖返りを繰り返せる融通性も継承されたとのこと。
つまりカニ化するかどうかの選択は、先祖から託された厄介な宿題であり、現代に生きる子孫たちは未だにその宿題を終わらせられていないともいえます。