クマノミは侵入者の縞模様を数えて「駆逐か放置か」を判断していた! / Credit: canva
ニモは数が数えられるようです。
映画『ファインディング・ニモ』でお馴染みのカクレクマノミは、棲家とするイソギンチャクに異なる種のクマノミがやって来ても大して気にしません。
ところが同種のカクレクマノミが侵入するとすぐに攻撃を開始し、執拗に追いかけ回して排除します。
これまでカクレクマノミが、見た目のそっくりなクマノミ類をどうやって見分けているのかよく分かりませんでした。
しかし沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究により、カクレクマノミは縞模様の数を数えて侵入者を識別していることが示されたのです。
研究の詳細は2024年2月1日付で科学誌『Journal of Experimental Biology』に掲載されています。
目次
性別をコロコロ変えられる驚きの生態とは?縞模様の数で「侵入者」を判断していた
性別をコロコロ変えられる驚きの生態とは?
カクレクマノミ(学名:Amphiprion ocellaris) / Credit: ja.wikipedia
カクレクマノミは、スズキ目クマノミ亜科に属する海水魚の一種です。
オレンジ色の体に3本の白い縞模様が特徴であり、幼魚のときは体長2センチ、成魚になると約8センチになります。
カクレクマノミが面白いのは、一生の中で「性転換」ができることです。
生まれたときには性別がないのですが、コロニーを形成する中で、最も大きな個体がメスに、2番目に大きな個体がオスに性転換し、つがいとなります。
残りの数匹は繁殖能力をもたないサブメンバーとして控えますが、群れのリーダーのメスが亡くなると、今度は副リーダーのオスがメスになり、次にサブメンバーの中で一番大きな個体がオスになるのです。
クマノミ類には約30種が知られており、その多くが同じような性転換の戦略をとっています。
野生のカクレクマノミの群れにはこうしたヒエラルキーがあり、基本的にはアルファのメス1匹、ベータのオス1匹、ガンマのサブメンバー数匹で構成されるようです。
イソギンチャクの中で暮らすカクレクマノミ / Credit: ja.wikipedia
もう1つの大きな特徴が、イソギンチャクと共生関係を結んで棲家にすることです。
イソギンチャクの触手には毒針(刺胞という)がありますが、クマノミ類はそれに耐性があるため、他の魚と違って共生することができます。
一方で、かわいい見た目とは裏腹にかなり怒りっぽい性格で、棲家とするイソギンチャクに同種のクマノミが侵入すると、攻撃して噛みつき、巣の外へ追い払います。
ところが見た目がそっくりなクマノミでも、同種でなければあまり興味を示さず、執拗に攻撃したりはしません。
ほとんど見た目が同じなクマノミをどうやって見分けているのか?
OISTの研究チームは実験でその秘密を明らかにしました。
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縞模様の数で「侵入者」を判断していた
研究チームは、実験室で飼育した幼いカクレクマノミ50匹を使って2つの実験を行いました。
1つ目はカクレクマノミのコロニーがある水槽の中に、白い縞模様の数が異なる種類のクマノミを入れたひとまわり小さな水槽を入れます。
そしてカクレクマノミがどれくらいの頻度で、どれくらいの時間、積極的にその水槽を見つめたり、周りを旋回したりするかを観察しました。
2つ目はカクレクマノミのコロニーに、クマノミそっくりに色付けした様々なプラモデルを見せ、それらに対する攻撃の度合いを測定しました。
プラモデルには白い帯模様が3本、2本、1本、無地の4タイプを用意しています。
実験に使用したプラモデル(白い帯模様の数を変えている) / Credit: OIST – クマノミは、しま模様を数えて相手を判断している?(2024)
その結果、カクレクマノミは自分と同じ3本の縞模様をもつクマノミに対し、最も攻撃的な行動を示すことが分かりました。
2本の縞模様のクマノミとプラモデルへの攻撃頻度はやや低く、1本または無地のクマノミへの攻撃頻度は最も低くなっています。
3本線のクマノミに対する攻撃頻度は、2本線のクマノミの約1.3倍、1本線のクマノミの約2倍、無地のクマノミの約10倍となっていました。
これはカクレクマノミが明らかに縞模様の数を判断材料にしており、「侵入者の種類を認識するために、模様の数を数えられることを示唆している」と研究主任の林希奈(はやし・きな)氏は説明します。
異なるクマノミ種とプラモデルに対する反応 / Credit: OIST – クマノミは、しま模様を数えて相手を判断している?(2024)
攻撃を担当するのは決まって「最も大きなクマノミ」
さらにチームは、侵入者を攻撃するのは決まってコロニーの中で最も大きなクマノミとなっていることを観察しました。
今回の実験では、まだオスやメスに変態していない幼魚を使っているのですが、それでも野生下と同じように体の大きさに基づいたヒエラルキーが観察され、最も大きな幼魚がリーダーの役割を担い、侵入者に対する駆逐を行っていたのです。
野生下でも必ず体の大きなメスがコロニーの治安を維持するために、体を張って侵入者を追い払ったり、あるいは体が大きくなりすぎて潜在的に危険のあるサブメンバーを排除する役割を担っています。
クマノミの地位を決定する上では、何よりも”体の大きさ”が重要視されるようです。
こちらは同じ3本線のプラモデル(侵入者)に対して、最も大きな個体が攻撃をする様子。
これまでの研究で、数を数えられる動物にはヒトを含む霊長類を除いて、カラスやイルカ、ゾウなどがおり、どれも非常に高い知能を持っていることで知られます。
カクレクマノミも、少なくとも1〜3まで数えらえるということは、私たちが想像している以上に高度な認知能力を持っているのかもしれません。
参考文献
クマノミは、しま模様を数えて相手を判断している?
https://www.oist.jp/ja/news-center/news/2024/2/2/clown-anemonefish-seem-be-counting-bars-and-laying-down-law
Clownfish may be capable of simple math
https://www.science.org/content/article/counting-nemo-clownfish-may-be-capable-simple-math
元論文
Counting Nemo: anemonefish Amphiprion ocellaris identify species by number of white bars
https://journals.biologists.com/jeb/article-abstract/227/2/jeb246357/342628/Counting-Nemo-anemonefish-Amphiprion-ocellaris
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。