有利子負債による自己資本の効率的な活用を行おうとしたが…
ROEとは自己資本利益率のことで、純利益を自己資本で除したものをパーセントで表す。株主資本をいかに効率的に使っているのかを見るもので、投資家が重視する指標の1つだ。
実はこの指標、借入(他人資本)を上手く活用することで、数字を高めることが可能だ。自己資本の対局にある他人資本を使って多くの利益を多く出せば、限られた自己資本で収益性を高めることになるからだ。
リコーは成長投資と称して、2026年3月期までに合計5000億円をM&A、新規事業の創出、経営基盤の強化などに投じるプロジェクトを進めてきた。
この計画には有利子負債も活用している。しかしながら利益率を高めることができず、ROEは停滞しているというわけだ。
業績が停滞している一方で、リコーの2024年6月末時点の手持ちの現金は1844億円もある。
キャッシュリッチで、低PBR、低ROEの会社を狙うのがモノ言う株主(アクティビスト)の常套手段なのだが、中堅企業などを狙って少ない投資額で10~20%程度の株式を買い進めるのが一般的だった。
しかし、リコーのような時価総額9000億円規模の大企業を狙ったのが、旧村上ファンド関係者が運営するといわれる投資ファンドのエフィッシモである。
東芝を非公開化に追い込んだやり手アクティビストであり、リコーの他にも、帝人や第一生命など名門企業の株を買い進めている。
エフィッシモが2015年からリコーの株を取得していたところ、リコーはアクティビスト対策か、2021年に1000億円規模の自社株買いを実施。
その後、エフィッシモは18%から15%程度まで保有比率を下げて、これで終わったかに見えたが、今年に入って買い増しを進めたのである。
9月19日に関東財務局に提出した変更保有書で、保有比率が17.01%から18.14%まで高まったことが明らかになっている。なお、保有目的は「投資や経営陣への助言、重要提案行為などを行うこと」だ。
エフィッシモは再びファイティングポーズをとった。
リコーは企業価値向上プロジェクトを成功させ、PBR1倍を上回る成果を出さなければならない。
2022年にサイボウズを資本提携するなど、デジタル化を進めているが、依然としてコピー機や複合機のイメージが強いリコー。キヤノンや富士フイルムとの収益性の差が出ているのはそのためだろう。
アクティビストが虎視眈々とゆでガエル化しそうな企業を監視しているとも見ることができる状況が、今後も続いていく可能性が高い。
取材・文/不破 聡