恐竜は「飛べない羽」をどう使っていたのか?ロボ恐竜で新説を実証! / Credit: Jinseok Park et al., Scientific Reports(2024)
地球上で最初に「羽毛」を獲得したのは鳥ではなく、恐竜です。
しかし恐竜が獲得した初期の羽毛に飛翔能力はなく、一体何のために使われていたのか、これまで大きな謎となっていました。
そんな中、韓国・ソウル大学校(SNU)の研究チームが、ロボ恐竜を使った実験で新たな説を提唱しています。
それによると、恐竜は羽毛を広げて茂みに隠れている昆虫を追い出し、姿を現したところを捕食する狩猟戦略に使っていた可能性が高いとのことです。
これは現代の一部の鳥が行う戦略で、もしかしたら羽毛恐竜が最初に発明した狩りの技術かもしれません。
研究の詳細は2024年1月25日付で科学雑誌『Scientific Reports』に掲載されています。
目次
恐竜は何のために羽毛を進化させたのか?恐竜の羽も「獲物の追い出し」に使えた⁈
恐竜は何のために羽毛を進化させたのか?
古生物学者にとって、恐竜たちの”失われた行動”をこの世に蘇らせるのは至難の業です。
行動は生きた個体から得られる情報であり、化石だけをジッと見ていても恐竜がどんな動きをしていたかはなかなか理解できません。
中でも古生物学者たちは、恐竜が最初に進化させた「羽毛」の役割について長年議論を続けています。
この原始的な羽毛は主に2本の前足と尻尾に見られる小さなもので、現代の鳥のような飛翔に使えるものではありませんでした。
では彼らはどうして羽毛を進化させたのでしょうか?
翼を広げて虫を誘き出すジャワハッカ / Credit: Bird Ecology Study Group – Flush-pursuit foraging in birds(2018)
これまでの議論では、自分自身や生まれたばかりの子供を温めるためとか、雌へのアピールというディスプレイの働きといった仮説が立てられています。
しかし本研究チームは、より直接的に生存に寄与するような機能があったと考え、新たな仮説を提唱しました。
それが「隠れた獲物を追い出す」というものです。
具体的には、羽をバサッと広げたり、羽ばたかせることで茂みに隠れた虫を驚かせて誘き出し、逃げまどう獲物を追いかけて捕食する戦略です。
これは英語で「フラッシュ・パースート・フォレイジング(Flush-pursuit foraging=追い出し・追いかけ採餌)」として知られ、ジャワハッカ(Javan myna)やマネシツグミ(Northern Mockingbird)など現代の一部の鳥が行っています。
翼をバサッと広げて昆虫を誘き出すマネシツグミ / Credit: Frank Severson – Mockingbird hunting(youtube, 2023)
そこで研究チームは、恐竜の羽毛にもこの機能があったかどうかを確かめるべく、ロボ恐竜を使った実験を行いました。
ロボ恐竜を作るにあたっては、約1億4400万〜9900万年前の白亜紀前期に生きていた羽毛恐竜の「カウディプテリクス(Caudipteryx =尾に羽毛を持つもの)」をモデルとしました。
カウディプテリクスは体長約1メートルで、2本の前足と尾に小さな翼があったことが分かっています。
これを元に開発されたのが、名付けて「ロボプテリクス(Robopteryx)」です。
では実験の結果を見てみましょう。
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恐竜の羽も「獲物の追い出し」に使えた⁈
実験では、ロボプテリクスの前に生きたバッタを置き、羽を動かす場合と動かさない場合でバッタの反応がどう変わるかを調べました。
チームはバッタを選んだ理由として、現代の鳥によるフラッシュ・パースート・フォレイジングに反応して逃げ出すことが知られており、またカウディプテリクスと同時代にも生きていたからと説明します。
そして数十匹以上のバッタを用いて実験を繰り返した結果、ロボプテリクスが羽を広げたときの方が圧倒的にバッタが逃げ出す確率が高いことが分かりました。
羽を広げなかった場合、バッタが逃げ出す確率は47%に留まりましたが、羽を広げた場合では93%のバッタが驚いて逃げ出したのです。
こちらが実験の様子。
さらに実験では、ロボプテリクスの黒い羽に白い斑点模様を入れたり、前羽だけでなく尾羽の動きを加えると、バッタの逃げ出す確率はさらに上がったといいます。
今回はバッタの動きが観察しやすいように何もない地面に置いた条件で実験しましたが、これらの結果は恐竜の初期の羽毛にもフラッシュ・パースート・フォレイジングの機能があったことを示唆するものです。
羽毛恐竜たちは茂みの中で羽をバサバサすることで隠れている獲物を誘き出し、追いかけ回して捕食していたと考えられます。
また前足の翼は逃げ出した虫をハエ叩きのようにバシンとはたき落とすのにも利用できた可能性があるでしょう。
A〜F:羽で虫を誘き出す戦略をする鳥たち、G:現生鳥類で羽で誘き出す狩りができる種の生息分布(赤:地面、黄:茂み、緑:樹上) / Credit: Jinseok Park et al., Scientific Reports(2024)
このようなに羽毛恐竜たちは狩りの中で羽毛を活用し、それが有用であったことから進化の過程で徐々に翼を大きくしていったと思われます。
その中でモモンガのような木から木へ飛び移る滑空に使えるようになり、そして最終的には空中を飛び回る飛翔能力を獲得していったのかもしれません。
参考文献
Scientists use robot dinosaur in effort to explain origins of birds’ plumage
https://www.theguardian.com/science/2024/jan/25/scientists-use-robot-dinosaur-in-effort-to-explain-origins-of-birds-plumage
Dinosaurs might have used feathers on forelimbs and tails to flush and pursue their prey, say biologists
https://phys.org/news/2024-01-dinosaurs-feathers-forelimbs-tails-flush.html
Flush-pursuit foraging in birds(2018)
https://besgroup.org/2018/10/05/flush-pursuit-foraging-in-birds/
元論文
Escape behaviors in prey and the evolution of pennaceous plumage in dinosaurs
https://www.nature.com/articles/s41598-023-50225-x
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。