2輪の新星アコスタが目指すのは、“バスケの神様”マイケル・ジョーダンの再現。新興KTMをシカゴ・ブルズにすることはできるか?

 2輪ロードレース最高峰のMotoGPにおいて、新星として一際注目を集めている男がいる。それが20歳のスペイン人ライダー、ペドロ・アコスタだ。

 アコスタはここ数年、世界選手権の舞台で目覚ましい活躍を見せてきた。2020年のレッドブル・ルーキーズカップでのタイトルを皮切りに、2021年にはMoto3、2023年にはMoto2で王座に。そして今季、満を持してKTM陣営のテック3から最高峰MotoGPクラスにステップアップした。

 アコスタはMotoGPデビュー2戦目で表彰台に乗ると、3戦目のオースティンでは2位に。最高峰の舞台で活躍できる才能がある「選ばれし者」であることを既に証明した。中盤戦はやや調子を落としたが、最近ではアラゴンで3位、インドネシアで2位に入るなど、再び上位争いに顔を出している。

 一時不調に陥った原因はいくつか考えられるが、最も有力なのは対峙するドゥカティのバイクが強さを見せているということだ。アコスタのルーキーシーズンをバレンティーノ・ロッシやマルク・マルケス、ホルへ・ロレンソといったレジェンドのそれと比較する者もいるが、彼らは当時考え得る最高のバイクを手にしていたことを忘れてはならない。

 今日のMotoGPは、極端に言えば「ドゥカティか、それ以外か」といった勢力図であり、アコスタはドゥカティ勢が上位を占める中でそこに割って入る走りを見せている。現在のランキング5番手も、非ドゥカティ勢では最も高いポジションだ。

 そのため、アコスタは来季のKTMファクトリーチーム昇格が決まっているとはいえ、同年を最後にドゥカティ陣営に移るのではないかという噂が、必然的に持ち上がっている。アコスタはKTMの現状にどこまで我慢できるのか? これについてアコスタ本人が、motorsport.comに対して話してくれた。

「KTMとの関係はもはやビジネスの枠を超えている。ハートの話なんだ」

 20歳のアコスタは、右手を胸に当ててそう語った。そして、さらにこう続けた。

「KTMは僕にとってもはや家族なんだ」

 アコスタは短期的にも中期的にも、KTMを離れてドゥカティに移籍することは考えていない。それは誰もが納得でき、正当な判断と言えるにもかかわらずだ。

 アコスタとKTMの契約には、特定の条件が満たされた場合に2026年及び2027年も参戦を継続するオプションが含まれており、契約は複数年にわたっていると言われる。motorsport.comの調べでは、これは非常に具体的な条項であり、毎年アコスタを放出することが可能だとされているが、アコスタはチームを前進させる決意で満ち溢れている。

■アコスタは、“MotoGP版マイケル・ジョーダン”となるのか?

 アコスタとKTMの関係は、世界で最も有名なバスケットボールプレイヤーであるマイケル・ジョーダンと、その所属チームであったシカゴ・ブルズとの関係を彷彿とさせる。

 ノースカロライナ大のジョーダンが1984年のNBAドラフトでブルズから全体3位で指名された時、ブルズは弱小チームであった。NBAのドラフトは基本的に勝率の低いチームから指名できる方式であるため、ブルズは成績が振るわなかったからこそ、有力選手のジョーダンを指名することができたとも言える。

 ジョーダンは1年目からチームの主力となったが、チームは敗戦続き。その中で強豪チームからのオファーもあった。ジョーダンは「優勝チームに行ってチャンピオンになることは簡単だった。大変だったのは、シカゴに(チャンピオン)リングを持って来ることだった」と回想している。

「誰もあのチーム(ブルズ)を信じていなかったけど、彼らはジョーダンを中心にチームを作り、前進させたんだ」

 そう語るアコスタ。彼は1990年代にブルズで6度のNBAチャンピオンとなったジョーダンのキャリアを描いたNetflixのドキュメンタリー、『ラストダンス』にインスピレーションを得たのだという。

「ドキュメンタリーの中で、ジョーダンが点を取ることだけを考えるのをやめ、優勝するためにチームをうまく動かすようになったと回想するセリフがある。彼が偉大な選手から、誰もが知っている伝説の選手になったのはその時なんだ」

「KTMでは、チーム全体が自分の役割を果たすことで、このファクトリーをチャンピオンに導くような素晴らしいグループを作ることができる」

「僕の大きな夢は世界チャンピオンになることだけど、KTMでそれを達成することが最大のチャレンジだ」