図書館で偶然出会った二人が、本を通じて恋に落ちていく。
ジブリ映画『耳をすませば』をヒントに、オンライン書店及び同じ本を選んだ人をマッチングするサービス「Chapters」を立ち上げた、株式会社MISSION ROMANTIC代表の森本萌乃さん(以下、森本さん)。
これまでになかった斬新な事業として注目を集める一方、森本さんの「経歴」も話題となっています。実は森本さん、新卒で大手広告代理店・電通に入社し、約4年間プランナーとして活躍していました。その後スタートアップを2社経験した後、Chaptersの書店主となります。
やりたいことがあっても、「自信がない」「これまで積み上げたキャリアを捨てるのが怖い」といった理由で躊躇する人も多い中、なぜ彼女は高収入・安定した大企業のキャリアを手放して、未知の環境にチャレンジできたのでしょうか。
電通を退職するも、コロナ禍でクビに。葛藤を抱えながら駆け抜けた20代
──安定・高収入の電通を退職し、“書店主”となった森本さん。まずは、これまでの経歴を教えていただけますか。
私が大学生のころは、まだ終身雇用が当たり前の時代でした。特にやりたいこともなかったので、「一生働くなら、いろんなことに挑戦できる会社にしよう」と思い、広告代理店や総合商社といった無形商材を扱う企業を中心に就職活動をしていました。そこで縁があったのが、電通です。
──起業を見据えて電通に入社したわけではなかったのですね。
そうなんです。ただ、電通での仕事は楽しかった一方で、やればやるほど「お客さまの顔が見えるような仕事がしたい」という気持ちが抑えられなくなっちゃって。
電通のクライアントである、飲料やコスメなど、形あるものをお客さまに届ける会社とご一緒するたびに、「羨ましい」「私もそっちの仕事がしたい」と思うようになりました。そこで、約4年間はたらいた電通を思い切って辞め、コスメのサブスクリプションサービスを提供する会社に転職しました。
念願のtoC向けサービスではたらくのは、とっても楽しかった!でも、少人数精鋭のなかでプレッシャーを感じながらはたらいていたこともあり、体調を崩してしまったんです。少し休んだあと、オーダースーツの会社に転職。そこもすごく楽しかったのですが、なんとコロナをきっかけにクビになってしまって……。
オンラインで“書店主”の仕事を始めたのは、このときからです。もともと遊び半分の気持ちで選書サービスを副業として細々とやっていて。でも、クビ宣告を受けて窮地に立ったときに、行きたい会社が見つからなかった。
ならば、「これをやるしかない」と思い、自分の事業に一本化しました。 当時、これで食べて行こうなんて考えてもいない起業だったので「本当にできるのかな!?」という不安は大きかったですが、なんせ仕事がなくなっちゃったのでやるしかなかった(笑)。
ピンチかチャンスか。これって本当に物事の捉え方一つで決まるし、準備万端のときにチャンスってやってこないのかもしれません。だからこそ、もうやるって決める!この選択が今考えると正解でした。
──「電通を辞めて好きなことで起業」というと、キラキラした姿を思い浮かべてしまいますが、その裏にはたくさんの障壁があったのですね。
私、人生を振り返ると大事なことって“ノリとテンション”で決めちゃうんですよ。電通ではたらき始めた理由も「なんか楽しそうだから」だし、辞めた理由も「なんか違うから」ですからね。
「ノリとテンションで大切なことを決めるなんてけしからん。無計画だから躓くんだ!」と思う人もいるかもしれません。でも、私はこの“直感”こそが大切だと思っていて。
恋だってそうじゃないですか。「あんなやつ、全然タイプじゃないし!」って思っていても、目で追っちゃう。それは心が動いているから。 理由がなくても動いちゃう気持ちこそが直感だし、決断を下さなくてはならないとき、この単純な直感を信じてみてもいいと思うんです。
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VC40社に断られても前向きでいられたのはなぜ?
──先程、“ノリとテンション”で電通の退職を決めたとお話されていましたが、安定した大手企業を辞める葛藤はなかったのでしょうか。
もちろんありましたよ。周りの人にも相談しました。「本当に辞めて大丈夫かな」って。それは私自身が多分、「大丈夫」って言ってほしかったから。前に進む勇気が欲しかったから。
でも、現実には誰も「大丈夫」なんて言ってくれないんですよ。私を含めて、みんな自分のことで精一杯だから、人の背中を押している余裕なんてない。「あぁ、自分のことは自分で決めなきゃいけないんだ」って、身に沁みて感じましたね。
──自分のことは自分で決める。当たり前のことかもしれませんが、自信がなくて決断できない、という人も多そうです。
分かります。転職活動や起業って、これまでやってきたことを評価されますもんね。選ばれなかったとき、自分自身を否定されているようで辛い。
実は私がChaptersを立ち上げたとき、40社のVC(ベンチャー企業やスタートアップ企業に出資を行う投資会社)から断られているんです。ショックでしたが、「私は私が欲しいサービスをつくっているんだ!よく分からない人たちに評価される筋合いはない!」と思って乗り切っていました。毎日目をパンパンに腫らしながらね(笑)。
40社のVCに断られた話は、森本さん初の小説「あすは起業日!」(小学館)に詳しく描かれています。
──すごく前向きですね。
うーん、それは「前向きに変わろう」と決めたからだと思います。私、ディズニープリンセスが大好きで、人生のロールモデルにしているんです。彼女たちのように、「どんなときも明るくて前向きな私になろう」と決めた日から、少しずつ努力していったというか。
プリンセスってみんな、「機嫌がいい」「友達が少ない」の2点が共通しているんですよ。
──「機嫌がいい」のは分かりますが、「友達が少ない」というのは?
友達が少ないのに機嫌がいいってことは、自分で自分のご機嫌をとれているってことなんですよ。たとえば、シンデレラのお家なんてかなりやばいじゃないですか。着るものも、寝る場所もまともに与えられていない。助けてくれる家族も友人もいない。なのに、ねずみさんにチーズを分けてあげられるシンデレラって、すごくないですか?
──たしかに。あの前向きさはどこからくるのでしょうか。
シンデレラは、「亡くなった大好きなお父さんと暮らしていた家に、今も住めている」っていうだけで、幸せを感じているんです。毎朝起きたら「今日も継母からいじめられる日々が始まる」と嘆くんじゃなくて、「今日も私、お父さんのおうちに住めている!」と喜ぶ。ほかのプリンセスたちも同じで、どんなに辛い状況でも、毎朝日々の感謝からスタートするんです。
私がChaptersを始めたときも、精神的にも肉体的にもしんどい毎日を送っていました。でもあるとき、「私がChaptersやりたかったからやっているんだよね。夢叶っているよね」と気付いて。
それからはどんなに辛い状況でも、朝起きたときはまず「私、自分の好きなサービスつくっている!夢叶えていてすごい!」と唱えるようになりました。
ダイエットと同じで、体が少しずつ変化していくように、心の変化も少しずつです。毎朝自分自身に声をかけてあげて、気付いたら、「意識しなくても前向きで明るい私」になっていましたね。