『悪魔と夜ふかし』デヴィッド・ダストマルチャン インタビュー 悪魔の実を持つ男の演技アプローチ

クリストファー・ノーラン、ドゥニ・ヴィルヌーヴ、ジェームズ・ガンら数々の人気監督に愛され、マーベル映画『アントマン』シリーズでも知られるほか、来たるNetflixシリーズ実写版「ONE PIECE」シーズン2ではMr.3役に選ばれた、いまやハリウッド屈指というべき名バイプレーヤー、それがデヴィッド・ダストマルチャンだ。

10月4日に日本公開された主演映画『悪魔と夜ふかし』は、1977年のハロウィン、テレビ番組の生放送中に怪奇現象が起きた‥‥という設定のファウンド・フッテージ・ホラー。怪異の真相が見えてくるとともに、ダストマルチャン演じる司会者ジャック・デルロイの秘密もまた明らかになってゆく。

複雑な二面性をはらむ主役をいかに演じたのか、名監督たち同士の関係とは、そして「ONE PIECE」Mr.3役について今言えることとは? 表現者であり職人でもあるダストマルチャンの、唯一無二の仕事ぶりをじっくりと聞いた。

役柄はすぐにつかめた

――これまでジャンルを問わず、あらゆる映画・ドラマに出演し、作品ごとに異なる表情を見せてこられました。本作の脚本を読んだ第一印象はいかがでしたか?

僕はこの仕事が大好きだし、物語を語ることや、ひとりの役者であることが大好きです。本作に出演するきっかけは、送ってもらった脚本を読んで、「こんな脚本は初めてだ」と思わずつぶやいたことでした。非常に独創的だし、いわゆる「憑依モノ」をきちんと共感できる形でユニークに描いていると思ったんです。

僕は1970年代や当時の美学、世界観が大好きだし、深夜のテレビ番組も大好きなので、(この映画の)すべてが特別に思えました。もうひとつ、監督たち(コリン&キャメロン・ケアンズ)が、当時のテレビ雑誌のようなプレゼンテーションをデジタルのスライドショーで作ってくれたのも大きかったですね。とても良くできていて、彼らの作ろうとしている世界がすぐにわかりました。

――演じるジャック・デルロイは陽気で愉快な司会者ですが、その内面には恐ろしい闇、言いかえれば「悪魔」がいるという役柄です。その二面性を表現するため、どのような演技のアプローチで臨みましたか。

僕は公の場に出る人間として――俳優やプロデューサー、脚本家、コミックのクリエイターとして――このようにインタビューを受けたり、プロモーションに参加したり、レッドカーペットやプレミアイベント、授賞式に出席したりします。どれも素晴らしいですが、そこにいるのはあくまで世間にとっての自分。

子どもやベビーシッターと過ごし、サッカーの練習をして、請求書や医療問題に向き合い、両親や日常生活、結婚、ストレスやつらい出来事に対処しているデヴィッド・ダストマルチャンとは別人です。

外に出ている間は、それらすべてを抑えながら、「最高だね」という顔をしていなければいけない‥‥。だから、ジャック・デルロイという役はすぐにつかめました。「カメラの前ではミスター・ショービジネス、けれども彼の内面はボロボロなのだ」と。それがジャックを演じる軸になりましたね。

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映画監督同士をつなぐ

――ジャック役を演じるため、具体的に役立った個人的な経験はありましたか?

以前、自分のコミックを宣伝するためにオンラインイベントを企画したことがありました。ホラー界のクリエイターやファンがたくさん集まってくれましたが、当時の僕は、コロナ禍の大変な時期に家族を守るため、大きなストレスや不安に対処していたんです。その頃、母が突然亡くなったこともあり、個人的なつらい感情を抑えながら、公の場でイベントを進行するのはきわめてつらい経験でした。自分が誇りに思っていたことさえ、そのときは難しく感じたのです。

――日頃はどんな演技のアプローチを取るタイプですか? 今回のようにご自身の経験を参考にすることは珍しいのでしょうか。

僕にとって、演技とは「謎」です。テクニカルで精密なやり方、つまり声や身体、表情を操ることで感情を表現し、台詞やアイデアを伝える方法もあれば、自分自身の歴史や経験をひもといて役柄やストーリーに生かす方法もあります。

しかし言うなれば、すべての役柄、すべての脚本、すべてのプロジェクトが発見の旅です。僕は脚本や監督のビジョンを尊重したいし、監督の狙いを手助けしたい。共演者との仕事には貪欲でありたいし、お互いにエネルギーを与え合うことで本物らしいものを作りたい。だから、作品ごとに新たな冒険に出るようなもので、「今の自分にはこんな道具とスキル、地図、経験があるけど」という感じ。それでも今回は新しい経験ができたと思います。

――ノーランやヴィルヌーヴ、ジェームズ・ガンら、そうそうたる監督の作品に出演していますが、それぞれの現場で互いの監督について話すことはありますか?

ときどき、監督が「あの映画はどんな感じだったんだろう?」と興味を持ってくれることはありますよ。『プリズナーズ』の撮影現場でドゥニ・ヴィルヌーヴに初めて会ったときは、『ダークナイト』でのクリストファー・ノーランとの仕事について聞かれましたが、監督たちがお互いの作品のファンであることは素晴らしいですよね。一緒に仕事をした人たちは、誰もが「デヴィッド・リンチとの仕事はどうだった?」と聞いてきますよ(笑)。

リンチは僕にとって偉大なヒーローであり、(「ツイン・ピークス The Return」は)魔法のように素晴らしい経験だったから、その話をするのは大好き。監督たちが自分の大好きな監督について話しているのはすごく面白いし、フィルムメイカー同士をつなぐ糸になれたようでうれしいですね。彼らが相手だと、スタンリー・キューブリックに始まり、気になる作品のことは夢中になって話してしまいます。

――そういえば、大のホラーファンであることも公言されていますよね。

(撮影現場で)SFやホラー、ジャンル映画について話すことも多いんですよ。僕にとって理想のホラー映画の組み合わせは、トビー・フーパーの『悪魔のいけにえ』、ウィリアム・フリードキンの『エクソシスト』、そして三池崇史の『オーディション』。もちろん、トッド・ブラウニングの『魔人ドラキュラ』については一日中話していられるし、ジェームズ・ホエールの『フランケンシュタイン』も大好き。古典的ドラキュラ映画を作ったハマー・フィルム・プロダクションの大ファンでもありますし、ほかにも大好きな映画は本当にたくさん、数えきれないほどあるんです。