10月4日に新しい総理大臣として所信表明演説に臨んだ石破茂首相。演説では裏金問題に対する「深い反省」が言及されたが、一方で対応は不十分なまま。次の選挙では裏金議員にも原則として公認を出し、比例代表との重複立候補も認める方針だ。それどころか、まさかの石破首相自身にも裏金問題が降りかかる事態となっている。石破首相は総裁選では裏金問題について厳しい姿勢を打ち出していただけに、その変節ぶりには批判の声が挙がっている。
対立激化の懸念から甘々の裏金議員公認
「こんなのはただのリップサービスに過ぎない」
野党議員の1人は石破首相の所信表明演説原稿を見て、そう憤った。
原稿では政権の方針について「ルールを守る」「日本を守る」「国民を守る」「地方を守る」「若者・女性の機会を守る」を五本柱としていくと綴られ、最初に挙げた「ルールを守る」では裏金問題について触れられたが、その項目は全23ページ中、たったの1ページしかなかった。
内容も「問題を指摘された議員1人1人と改めて向き合い、反省を求め、ルールを守る倫理観の確立に全力を挙げます」「(政治資金について)更に透明性を高める努力を最大限していくことを固くお約束申し上げます」などと書かれているのみで、具体的な方法については言及されていない。
他の「守る」については複数ページにまたがって様々な政策が並んでいるのと対照的だ。
野党議員は「冒頭に掲げて大事そうに扱っているだけで、その中身は質も量も伴っていない。総理大臣が代わっても、裏金問題をただすことができない自民党の体質はまったく変わっていない」と手厳しく批判した。
そんな石破首相だが、解散総選挙が10月27日に迫るなか、裏金問題を抱えていた議員も原則として公認し、比例代表との重複立候補も認める方針だ。
石破首相は総裁選で、裏金議員の公認について「自民党として責任をもって有権者にお願いできるか厳正に判断されるべき」とも述べていたため、当初は厳しい対応を取るかもしれないと見られていたが、特段の対応は取らずに選挙に臨んでいく予定だ。
自民党関係者は語る。
「裏金議員を非公認にすると、そもそも選挙における自民党の候補者が大きく減ってしまい、代わりの候補者を立てる時間的猶予もないため、公認しないという選択肢は初めからなかった。
ただ、一時は裏金議員を公認する一方で、比例代表との重複立候補を認めない案も挙がっていた。重複立候補ができなければ、小選挙区で落ちた場合に比例復活することができず、国民の審判はより厳正に行なわれることになるからだ。
しかし、裏金議員が続出した旧安倍派などの保守系議員からの反発が大きく、最後は比例復活を認める従来通りの対応を取ることで落ち着いてしまった」
石破政権では保守系議員が閣僚・党役員人事で冷遇されていることから、すでに党内には亀裂が走っている。
これから総選挙に臨んでいくうえで、これ以上の対立の激化は避けるべきと判断されたのだろう。
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首相自身にパーティー収入不記載報道
そんな中で、石破氏が率いていた派閥「水月会」(旧石破派)にも裏金疑惑が浮上している。
日本共産党の機関紙「しんぶん赤旗」が10月6日に出す日曜版では旧石破派の政治資金パーティーの収入が、2021年までの6年間にわたって計140万円分、不記載になっていたとしており、裏金の疑いがあるとネットで先んじて特報しているのだ。
また、10月4日の朝日新聞朝刊では、その一部を追いかける形で「旧石破派も不記載か」と1面に記事を掲載。
2019年から2021年に開かれた政治資金パーティーの収入が計80万円分、記載されていない疑いがあると報じている。
永田町関係者は「自民党を揺るがした裏金問題も、もともと『しんぶん赤旗』のスクープが端緒になっており、旧石破派の不記載も大きな問題になるかもしれない。
まだ裏金だと決まったわけではなく、事務手続き上の記載ミスの可能性もあるが、もし旧安倍派のように派閥から議員へのキックバックや、議員が派閥に政治資金を納める前の中抜きが生じていたら大変なことになる」と指摘する。
10月4日の官房長官記者会見では不記載に関する質問も飛んだが、林芳正官房長官は「石破総理がただちに経理を担当していた者に指示を出し、事実関係を確認させている」と述べるにとどめた。
今後、石破首相自身からどのような説明があるのかが注目される。
裏金議員に対して厳しい対応を取るどころか、自身の裏金疑惑まで浮上してしまった石破首相。
報道各社の最新の世論調査による石破政権の内閣支持率は読売新聞51%、朝日新聞46%、毎日新聞46%。
岸田文雄政権の末期の支持率からは大幅に回復したものの、歴代首相の政権発足時に比べると低い数字になっており、早くもこれからの政権運営や衆院選に暗雲が立ち込めている。
石破首相は所信表明演説で、本人がたびたび引用する、渡辺美智雄元副総理の「政治家の仕事は勇気と真心をもって真実を語ることだ」という言葉を取り上げたが、裏金問題への対応を見ている限り、残念ながら勇気も真心も感じることができない。
野党議員は「政権の方針で『5つの守る』を取り上げているが、そもそも本人が総裁選の約束を破っているじゃないか」と皮肉った。
総裁選で勇ましく語った言葉からの変節ぶりはすでに様々な形で指摘されており、石破首相の実態はすでに国民から見破られつつある。
このまま、従来の自民党の価値観に基づく事なかれ主義や党内融和を優先し、石破カラーを出すことなく、解散総選挙に突入していくのか。
選挙に向けて国会が荒れ模様となる中、石破政権の行方が注目されている。
取材・文/宮原健太
集英社オンライン編集部ニュース班