実写ドラマもいよいよ開幕、新たな熱狂を生み出している『ゴールデンカムイ』。金塊争奪戦を繰り広げる敵対勢力として、「北鎮部隊」こと旧陸軍第七師団が登場することは今さら説明するまでもない。
「どこまでが史実で、どこからがフィクションかわからない」という巧みな境界線のぼかし方は、作品の魅力のひとつ。
実際に旭川市はかつて「軍都」と呼ばれ、第七師団の本拠地だった。そして現在、同地には屯田兵や第七師団の貴重な資料を展示し、北海道の防衛と開拓の歴史に加え、陸上自衛隊第2師団の活動を紹介する「北鎮記念館」が建っている。
・北鎮部隊の歴史を展示する「北鎮記念館」
陸上自衛隊旭川駐屯地に隣接し、堂々たる姿を見せる北鎮記念館。
鉄道駅から現地に至るルートは、かつて「師団通り」と呼ばれていたことが作中でも紹介される。現在は「旭川平和通買物公園」として親しまれる。
入館は無料。営利施設ではないし、公的機関に付属するちょっとした資料館だろう……くらいに考えていたら、予想は大きく裏切られた。
明るく開放的なフロアに、ずらりと並んだ展示品。軍服、武器、携行品、階級章、手帳、刊行物など、無数のアイテムが圧倒的な存在感をもって迫ってくる。
その最大の特徴は、多くの人から寄贈を受けた「実物」が展示されていることだろう。収蔵数およそ2500点!
素朴な生活用具もあり、「軍の展示なのに?」と意外に感じるが、屯田兵の歩みは北海道開拓の歴史と切っても切り離せないため。兵士でありながら家族で農業を営み、未踏の地を開墾するという特殊な任務がうかがい知れる。
また、忘れてはならないのが、第七師団の存在が旭川の発展と表裏一体であること。
作中で杉元も「ずいぶんと栄えているな」と驚いた旭川。囚人の労役で造られた上川道路について、土方歳三が説明するシーンがある。
筆者はずっと本州住まいのため、恥ずかしながら北海道といえば「乳製品が美味しい」とか「北の国から」とか「寒そう」といった表面的な理解ばかりで、歴史について考えることがほとんどなかった。
水の便のよいところに人が住みつき……あるいは城を中心に城下町が発展して……といった本州の町々とはまったく成り立ちが違う。
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・さらに深く作品を理解できるように!
展示に話を戻そう。『ゴールデンカムイ』ファンなら「これ作中で見たことある!」というアイテムの連続。とくに衣類の充実ぶりは圧巻だ。研究者や絵描き、デザイナー、コスプレイヤーなど、資料的価値を感じる人もかなり多いのではないだろうか。
「尾形がルーズソックスみたいに足の周りに巻いている布、こうなってるのかぁ!」だとか
「背中の荷物ってこうやってまとめるのか! 背嚢(はいのう)も飯盒(はんごう)も双眼鏡も全部実物が!!」だとか
「アザラシの皮を張ったスキーってこれかぁ! 滑走する第七師団がやたらかっこいい!!」だとか
(旭川は北海道のスキー発祥の地とされる)
「モコモコのミトンには本当に紐が付いている!」だとか
「さ、38式歩兵銃……!」だとか、もちろん館内で声を上げるようなことはしないが興奮を隠せない。
中でも「肋骨服」と呼ばれる陸軍少将の軍衣には注目。非常に優美で精巧なつくりだが、やはり当時の人は小柄だなぁとも実感する。作中人物のような筋肉ムキムキはいない、おそらく。
漫画作品はあくまでエンタメ。史実と混同すべきではないし、ましてや現実の軍隊や戦争や兵器を美化しない線引きは大事。
けれど、明治時代に実際に陸軍最強と呼ばれ、道民に畏敬の念を抱かれた部隊がいたこと。日露戦争で戦ったこと。北海道の発展に寄与したことなどが、立体感や温度感をもって伝わってくる。
歴代の第七師団長の肖像もじっくり見たい。第二次大戦後に解体された第七師団、歴史上最後の師団長の名は……(写真左下を拡大!)
施設の全体像を示すジオラマも必見。現在の駐屯地を丸ごと含む、周辺一帯が敷地だったという。歩兵第27聯隊の兵舎もちゃんとあるぞ。
旭川が登場するエピソードといえば、なんといっても白石奪還大作戦!
土方歳三&キロランケという珍しいコンビが見られる道中や、天才詐欺師・鈴川聖弘の活躍、鯉登少尉との心理戦、飛行船強奪など見どころが数多くある。
小樽に拠点をもつ鶴見中尉たちはあまり旭川にいるイメージがないが、回想シーンではたびたび登場。印象的な階段をはじめ、別のスポット(北海道開拓の村)をモデルとした室内の様子と組み合わせて描写されている。
北鎮記念館では案内員による展示解説も実施。お願いすれば『ゴールデンカムイ』に関連する解説も……!