〈父親の育児うつ〉「育児の現場では男性の方が孤立しやすい」旦那の愚痴で盛り上がるママたち、支援の対象は母親ばかり、経営者の妻を持つ父親が1年のワンオペ育児で感じたこと

女性の社会進出とともに推進される父親の育児参加。厚生労働省が2022年に「産後パパ育休」を創設し、男性の育休取得も昨年度は30・1%と過去最多になる中、懸念されているのが父親の「産後・育児うつ」の問題だ。育児を通じて男性はどんな場面で孤独や無力感を感じやすいのか。実際に経営者の妻を持ち、2児とも育休1年取得でワンオペ状態を経験した父親に話を聞いた。

妻のキャリア優先、育休1年取得でワンオペ育児を経験

「育児の世界では、マイノリティの男性のほうが孤立しやすいのかなって感じましたね」

そう語るのは、長女(5)と長男(2)の父親で会社員の中西信介さん(37)。妻は霞が関に勤務した元官僚で、現在は福島県を拠点とする会社の経営者だ。

福島と住まいのある東京を行き来する二拠点生活を送る妻との育児は、中西さんが主体となることは、ごくごく自然な流れだった。

2018年12月、長女が誕生し、中西さんは育休を1年取得した。

当時、保育園を運営する会社に勤め、保育士資格も取得していた中西さん。育休を取得することに対して、「いい経験になるから」「頑張って」と周囲の反応も温かかった。

育休を1年取得する背景には、妻が福島と東京を行き来する働き方や、経営者で育休制度を利用できないことなど家庭の事情も関係していたが、保育の現場で働いていた経験も大きかった。

「子どもが産まれてからの1年間の成長って目覚ましいものがあって、それを近くで見られるって人生の喜びだなって感じました。また育児をしながら働く親御さんと接する中で、余裕を持って生活できることの大切さを実感したのも大きかったですね。

具体的には『経済』『時間』『関係性』の3つの余裕です。この3つが整っていると親も子も幸せだし、出産後すぐに仕事復帰する妻を支えながら育児をするのには、やはり育休1年は必要だと感じました」

妻は産後数か月で仕事に復帰し、中西さんのワンオペ育児が幕を開けた。育児うつにはならなかったものの、「自分はたまたま職場や地域のコミュニティに恵まれていただけで、何の支援も支えもなければ孤立する場面は多々ありました…」と当時を振り返る。

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「うちの旦那使えなくてさ(笑)」ママたちの愚痴に肩身狭く 

父親の育児うつは、ワンオペ状態や復職後に仕事と育児の両立の難しさからバランスを崩し、発症するケースが多いと言われている。

保育士資格を保持する中西さんでもワンオペ状態で孤独を感じた場面は何度かあった。

「育児そのものがつらいというより、言葉によるコミュニケーションが難しい赤ちゃんと2人きりで、近くに話せる大人がいないという状態が『育児うつ』の一因になるんだなって思いました。

僕の場合は保育園に勤務していたこともあり、子育て支援のネットワークがある程度、頭に入っていたので、それが安心材料になりましたが、育児中はいかに社会から孤立しないかが大事なんだと思います」

それでも子育て支援センターや母子保健センター、また保健師訪問の支援対象はほとんど母親であることに育休中ギャップを感じたという中西さん。

「困っているのはお母さん前提で、僕は対象じゃないんだなってそれだけで心砕かれましたよ。平日に子育て支援センターに行って『みんなで育児の話をしましょう』ってなっても10人中、僕だけ男だったり。

状況としてはワンオペのお母さんと変わらないのに、男性ってだけでよくも悪くも特別視されて、居心地の悪さは感じますよね。

お母さん同士で『うちの旦那使えなくてさ』って愚痴り合ってる中で、妻の愚痴なんて言えないじゃないですか(笑)男性多数の企業で働いていて、いきなり育休に入ると育児の世界では男性はまだマイノリティなので、戸惑う人も多いし、男性の方が孤立しやすいのかなって感じました」