少年院を仮退院後、暴走族に所属し、再び“悪の道”を歩むようになったしまったワタル。
著者・中村すえこさんが聞き出したワタルの心情、“現代の暴走族”の内情を『帰る家がない 少年院の少年たち』(さくら舎)より、一部抜粋、再構成してお届けする。
飛んだやつは、公開処刑される…“上からの指示”とは
社会に戻ったワタルはその後高校へ進学したが、のちに中退してしまった。自由と持て余す時間がワタルの非行を加速させ、暴走族に所属するようになった。
暴走族はすでに化石状態かと思っていたが、形を変えて現在も存在していたことに驚いた。
形を変えてというのは、暴走と喧嘩をしていた私の時代の暴走族とは違い、なんでもありの犯罪集団になっていた。
年齢幅もかなり広く、ワタルが入った暴走族はネットニュースになることもあった。上からの指示は詐欺の受け子を探すこと、チームに勧誘することだった。勧誘は、人数が増えればケツ持ち (暴力団関係者など後ろ盾となっている者)に上納金を用意する兵隊が増えるからだ。耐えられなくて飛んだ (逃げた)やつは、インスタで顔と名前を出され、公開処刑される。それでもワタルはこう言っていた。
「自分の唯一の居場所だったっていうか……。ここが自分にとって居心地がよかった」
ワタルは寂しかったのかな。インタビューを読み返していて、そんな風に感じた。
自分を認めてくれる居場所が欲しかったのは私と同じ。あのときは自分の寂しい気持ちに気づかなかった。ワタルも私と同じように、自分を認めてくれる存在しか信じられなかったのかもしれない。
ワタルが仮退院してから1週間が過ぎていた。彼から連絡はくるだろうか。
信じて待つしかない。
そして、3週間を過ぎた頃だろうか、高坂くんから「ワタルとつながりました」と連絡が入った。
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仮退院後のワタルの姿は…
11月、ワタルが仮退院してから4ヵ月後、渋谷で会う約束をすることができた。
コロナ禍も収束に向かいつつあり、渋谷は人であふれ返っていた。
待ち合わせはハチ公前。高坂くんと2人でワタルを待った。
「あれ、あの子じゃない?」
「いや、もっと身長高いですよ」
私の問いかけに高坂くんが答えた。
「あっ!」
高坂くんが右手を上げて歩き出した先に、ワタルの姿が見えた。
ワタルはスリムジーンズにTシャツ、髪の毛もセットされていた。少し瘦せたように見える。メガネはなく、コンタクトになっていた。
改札口を間違えて出てしまったそうだ。きっと走ってきたのだろう、額には汗が滲んでいた。
高坂くんとワタルはハチ公を背に、横断歩道に向かって歩きはじめた。会話は聞こえないが、2人が笑顔で話しているのがわかる。
2人を追い越して、後ろ向きで歩きながらカメラを回し、その様子を撮影した。フレーム越しに見る2人は、久しぶりに会った友人同士に見える。
こうして少年院の中からつながり、社会で再会できるのはとても嬉しいことだ。再会し、無事、映画の撮影を継続できたことに安心した。