Credit: Luis Aguilar, CETALAB(2024)

海の頂点捕食者、シャチ。

このほど、南米チリ沖を拠点とするシャチの集団が「イルカ」をハンティングしている様子が世界で初めて撮影されました。

チリ・アントファガスタ大学(Universidad de Antofagasta)によると、シャチたちはイルカを空中に弾き飛ばして仕留めるという、かなり過激な狩猟方法を取っていたとのことです。

また家族内でイルカの食事にありつける順番も明らかになってきました。

研究の詳細は2024年9月26日付で科学雑誌『Frontiers in Marine Science』に掲載されています。

目次

南米チリ沖の「フンボルト海流」に暮らすシャチ集団イルカを捕食している様子を初確認!

南米チリ沖の「フンボルト海流」に暮らすシャチ集団

今回の主役は、南米チリ沖のフンボルト海流を拠点としているシャチ集団です。

フンボルト海流はペルー海流ともいい、南アメリカ大陸の西岸に沿って北上する海流を指します。

シャチは世界中の海に広く分布していますが、基本的にはメスを中心とした母系社会であり、一つの家族が塊となって特定の海域をホームとします。


フンボルト海流(緑)/ Credit: ja.wikipedia

これまでの調査で、フンボルト海流にも一つの同じシャチ集団が棲みついていることが知られていました。

ただ一方で、フンボルト海流のシャチ集団がどのような食性を持つタイプなのかはよくわかっていませんでした。

シャチは食性の違いで「5つのタイプ」に分けられる

生物学上、シャチ(学名:Orcinus orca)はすべて一種にまとめられますが、グループごとにかなり特色が異なります。

特にこれまでの調査によると、南半球のシャチは食性とサイズによって以下の5タイプに分類できることがわかっています。

・タイプA:白いアイパッチの大きさが中程度で、主にクロミンククジラやミナミゾウアザラシなどの海洋哺乳類を食べるタイプ

・タイプB1:アイパッチの大きさがAの2倍ほどで、主にウェッデルアザラシを食べるタイプ

・タイプB2:アイパッチの大きさがAの2倍ほどで、主にペンギンと魚類を食べるタイプ

・タイプC:体長とアイパッチも小さく、主にライギョダマシなどの魚類を食べるタイプ

・タイプD:アイパッチが最も小さく、魚を食べるタイプ


南半球に分布するシャチの5タイプ(現在、タイプBは2つに分かれる説が有力)/ Credit: ja.wikipedia

(ちなみに北半球のシャチも主に3タイプに分類され、海岸付近に住む「レジデント型」・沖合に住む「オフショア型」・海域を移動しながら暮らす「トランジエント型」があります)

ただ南半球のフンボルト海流に暮らすシャチ集団が、この5タイプのどれに当てはまるかはよくわかっていませんでした。

このタイプ分類を知ることは、特定のシャチ集団を効率的に保護する上でも非常に重要です。

そこで研究チームは今回、フンボルト海流のシャチ集団がどのような食性を持っているかを調査しました。

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イルカを捕食している様子を初確認!

本調査ではチーム自らの現地調査に加えて、漁船やホエールウォッチング旅行によって収集された写真や動画などの市民科学データを組み合わせています。

その結果、フンボルト海流のシャチ集団がイルカを捕食している証拠が初めて確認されました。

イルカを食べていたのは一度ではなく、何日も連続してイルカを狩っていたことから、この集団はイルカを常食していると見られています。

シャチの餌食になっていたのは「ハラジロカマイルカ」でした。

本種は名前の通り、黒っぽい背中に反して腹部が白いのが特徴です。


イルカを狩る様子/ Credit: Ana M. García-Cegarra et al., Frontiers in Marine Science(2024)

また狩りの手法もかなり過激で残忍なものでした。

シャチ集団は群れで1匹のイルカを囲うと、メスのリーダーがイルカを空中に弾き飛ばしながら何度も衝撃を与えて死に追いやっていたのです。

チームは海洋哺乳類のイルカを常食とすることやアイパッチのサイズなどから、フンボルト海流のシャチ集団は「タイプA」に属すると考えています。

さらに仕留めたイルカはメスのリーダーによって家族に分け与えられていましたが、その順番にもある一定の規則性が見られました。

まず最初にメスのリーダーがイルカの肉を食べた後、幼い子供たちに分け与え、最後に他のオスの成体たちへと回されていたのです。

イルカを家族で食べる様子がこちら。音声はありません。

研究者らは「狩りをした者が最初に子供に食料を与え、最後に大人たちに与えるルールは人間の家族にも似ている」と話しました。

シャチは非常に知能の高い動物であるため、自分たちの生存と繁栄にとって最適な食事ルールも決めているのでしょう。

チームは今後「可能であれば、フンボルト海流のシャチ集団の皮膚サンプルを採取して、遺伝子データを分析したい」と考えています。

しかしシャチは頭が良くて、巧妙に立ち振る舞うので、船で近づいて接触するのはかなり困難を極めるとのこと。

ただ食性や遺伝子データを得ることはシャチの保護活動に役立つため、シャチを守る上では避けて通れないでしょう。

参考文献

Mysterious orca group near Chile tracked down, revealing newly discovered hunting skills
https://www.frontiersin.org/news/2024/09/26/mysterious-orca-group-chile-new-hunting-skills-frontiers-marine-science

Incredible World-First Footage Shows Elusive Orcas Hunting And Eating Dolphins Near Chile
https://www.iflscience.com/incredible-world-first-footage-shows-elusive-orcas-hunting-and-eating-dolphins-near-chile-76125

元論文

New records of odontocete and mysticete predation by orcas in the Humboldt current system, South Pacific Ocean
https://doi.org/10.3389/fmars.2024.1450624

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部