画像はAIで生成したイメージ

美和さん(仮名・21歳)は4歳と3歳と0歳の子供を育てるシングルマザー。父親の勝さん(仮名・63歳)は地元で名の知れた暴力団の組員だったが、美和さんが中学生の時に極道から足を洗った。

「私が学校で『ヤクザの子供だ!』といじめられたことがきっかけだったみたいです。私はバツ3の父にとって初めての子でしたし、遅くにできたこともあって、父は私を溺愛していたんです」

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勝さんは組を抜けるにあたり、指を詰める代わりに1000万の上納金を払ったという。

「ベンツもロレックスも売り払ったみたいですね。ただ、そこまでして堅気になっても世間の目は冷たかったです」

中学を卒業した美和さんは、地元から逃れるように他県の私立高校に入学するが、アルバイト先で知り合った大学生と恋仲になり、彼の子供を妊娠してしまう。

「彼はもう就職も決まっていましたし、お互い真剣だったので入籍の話も出ていたんですが…逃げられました。高校生の私を妊娠させたことに激怒した父が、日本刀を持って彼の家に殴り込みをかけちゃったんです。幸いケガ人などは出なかったんですが、彼の家族がビビっちゃって突然姿を消したんですよ」

行き先も不明。バイトも大学も辞めてしまった彼とはそのまま音信不通になった。

「探し出す方法もあったかもしれませんが、逃げた男が責任をとってくれるとは思えないし、もし見つかったら今度こそ父に殺されるかも知れないと思って忘れることにしました」

その後、美和さんは高校を中退し、女児を出産した。

「父もすごく喜んで、逃げた男のことなんか頭の中からすっぽり消えてしまったみたいに、ひたすら可愛がってくれました」

「反社の身内は雇えない」と解雇

美和さんは母親に娘を預けて工場で働き始めるが、半年後に同僚だった一回り年上の男性と交際を始め、再び妊娠する。

「彼はシングルマザーである私のことを『一生支えたい』とプロポーズしてくれたし、娘のことも可愛がってくれました。今度こそ幸せになれると思っていました」

だが、結局この男性も美和さんの父親の素性を知ると別れを言い出し、「中絶費用として」と20万円を美和さんに渡した後、工場を退職して行方不明になった。また、これがきっかけで「反社の身内は雇えない」と美和さんは工場を解雇されてしまったのだ。

「立て続けに何だよ!と思いましたけど、それはもうしょうがないことなので、気持ちを切り替えました」

そして美和さんは無事男児を出産。

「当時出稼ぎで福島にいた父には事後報告でした。『今度もお父さんがいないんだ』と言うと『そうか…』とだけ言って黙り込んじゃいました。きっと察したんでしょうね」

10代の若さで2人の子供を抱えることになった美和さんは「片親なのは仕方ないとしても子供たちには何不自由のない生活はさせてあげたい」とがむしゃらに働いた。

「ひたすらバイトを掛け持ちしました。コンビニとかビル掃除とか。私は幸い身体が大きくて力もあるので引っ越しのバイトとか肉体労働もやりましたよ」

時給の良さにひかれてキャバクラでも働いていた美和さんは、しばらくして客として来ていた男性・Aと親しくなるが、このAもまた「元ヤクザ」で奇遇にも勝さんの元舎弟だった。

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父親はガン、母親も病床に…

「そんなところに縁を感じたのでしょう。お付き合いをすることになったんですが、Aが傷害事件を起こして逮捕されちゃったんです。どうやら窃盗の余罪もあったようで収監されちゃいました。堅気にはなりきれてなかったみたいですね」

ただ、Aと破局を迎えた美和さんの不運はこれだけではなかった。なんとAの因縁が彼女に襲い掛かったのである。

「Aの傷害事件の被害者で、敵対関係にあったヤクザにレイプされたんです。こいつは父のことも知っていました」

この事件が原因で、不幸にも美和さんはまたも妊娠してしまう。

「経緯がどうであれ、私のお腹に宿った以上は、上の2人と同じ私の子供です。産むことしか考えませんでした」

生まれた子供は女児だった。母親のサポートを受けながら美和さんは3人の子供を育てたが、父親がガンになり、看病をしていた母親も体調を崩してしまったため、ワンオペ生活へと突入する。

「友達からは『苦労の塊』とか言われています(笑)。病床の父からも『ヤクザの娘に生まれたばかりにしなくて良い苦労をさせて申し訳ない』とか謝られますけど、父は私のために精一杯頑張ってくれたと思うし、父のことを理由に逃げた男たちは、きっと父のことがなくてもアテにできなかったと思うから未練もありません。レイプ犯も死にました(※死亡の経緯などは割愛)ので心配もありません。何より3人もの子宝に恵まれたので、自分ではけっこう幸せな人生だと思っています」

「親が中卒だと子供が恥をかくかもしれない」と実は長女を出産後に通信制の高校に入学していた美和さんは、無事高校過程を終了し、先日介護士の資格も取得。現在は余命いくばくもない父親と寝たり起きたりの母親の面倒を見ながら、仕事と3人の育児をこなし、パワフルに暮らしている。

取材・文/清水芽々

清水芽々(しみず・めめ)
1965年生まれ。埼玉県出身。埼玉大学卒。17歳の時に「女子高生ライター」として執筆活動を始める。現在は「ノンフィクションライター」として、主に男女関係や家族間のトラブル、女性が抱える闇、高齢者問題などと向き合っている。『壮絶ルポ 狙われるシングルマザー』(週刊文春に掲載)など、多くのメディアに寄稿。著書に『有名進学塾もない片田舎で子どもを東大生に育てた母親のシンプルな日常』など。一男三女の母。