「20年越しの夢叶った」。未経験42歳”おじさん”が海外エアラインでCA採用された話。

失敗を「失敗」と思わないほうが生きやすい

——なぜ、公認移民コンサルタントを辞め、CAに応募しようと?

2019年には、公認移民コンサルタントで年300万円近い売上が上がるようになりました。

でもコロナ禍で、カナダへの旅行者や移民が激減して。2022年には売上がゼロになり、廃業せざるを得ませんでした。国の補助金のお陰で、生活面は心配しなくてよかったのですが……。

仕事を得ようと現地の職業訓練校でプログラミングスキルを習得して、「100社受けて、だめだったらその時に考えよう」と、インフラ系のエンジニア職に30社ほど応募しました。ただ、エンジニア職は世界各国からたくさんの経験者が集まる上、実務経験が問われるので、1社も受かりませんでした。

2024年2月、就職が決まらずフラストレーションが溜まっていた時、以前CAをすすめてくれた友人女性が、再び「あなたはCAに向いているわ」と。パートナーの彼と一緒に、「君なら絶対に受かるよ!」と背中を押してくれたんです。


大学時代「海外なんて別次元だった」おりょうさんは今、カナダ在住歴12年目だ

——ご友人は、言語力以外に、おりょうさんの人柄を見て「接客に向いているな」と思われたのでしょうか。

人柄はあまり関係ないと思います。

そもそもカナダの航空会社は、接客にそこまで力を入れていないんです。CAの最重要任務は「機内の安全確保」。それができて初めて機内サービスを提供できます。日本の航空会社のホスピタリティが高いのは、日本人が、CAが厳しく言わずともルールを守れる国民性だからかもしれません。

私が考えるCAに必要なスキルは、リーダーシップや臨機応変さ、群衆コントロール力などです。緊急避難時は、200人近いお客さまの脱出や消火活動、応急手当てを指揮しなければなりませんし、障害のある方の補助や、攻撃的なお客さまへの対処も必要です。フライト中に爆弾の脅迫を受けた時の対処手順も知っていなければならず、「接客」の優先度はあまり高くありません。

友人は私の適応力の高さを見て、向いていると思ってくれたのかもしれません。

——2024年3月にカナダの主要航空会社に採用され、6月に初乗務するまではどのように進んでいきましたか?

CAとして採用されても、約2カ月間のトレーニングプログラムに合格しなければ本採用にはなりません。

3月26日から1日8時間、月曜から金曜まで座学と実務のトレーニングがありましたが、毎週試験があるので、「いつ試験に落ちてしまうんだろう」と不安でした。26人の同期がいましたが、想像以上にハードだったからか、途中で辞退する人もいました。

座学では、「明日までに読んできて」と言われるテキストが何十ページに渡ることも。航空業界の専門用語や医療用語を、英語で覚えるのも大変でした。

一度だけ、夜中の3時まで勉強をして実務試験に挑んだら、落ちてしまったことがあったんです。飛行機のドアの開閉の試験でしたが、寝不足のせいか、安全確認のためのセリフを1文忘れてしまって。落ちても再試験があるのですが、再試験にも落ちてしまうと除名(解雇)になります。

その日から、睡眠を第一に考えるようになり、試験にすべて合格。卒業時、同期は21人に減っていましたが、無事、6月に初乗務を果たしました。


42歳未経験で、カナダの主要航空会社にCAとして採用された

——40代で未経験の職種に応募するのは、とても勇気がいると思います。なぜおりょうさんは、年齢や経験の壁に囚われずに挑戦できたのですか?

40代での転職が珍しくないカナダに12年間住んでいる、というのももちろんあります。

ただ私は、小さな失敗はたくさんしてもいいと思っているんです。私自身、側から見れば失敗のない人生ではありません。コロナ禍の失業も、一度CAの実務試験に落ちたことも、「次に進めばいいや」と「失敗」を失敗としてカウントしてきませんでした。失敗を失敗とみなさないほうが、生きやすいですから。

それに、今回のように新しいことに挑戦するのは初めてじゃありません。たとえば、37歳で挑戦した公認移民コンサルタントも、年長者の多い同業界では、若すぎるほうでした。

やらない理由は、探せばいくらでも見つかります。30代だから、40代だから向いていない……でも、向いているかどうかを決めるのは周りではなく、自分だと思うんです。私はもともと華やかな世界に憧れていたうえ、憧れの女性がCAとして活躍していたことでCAを志しました。人生って、ロールモデルとなる人に出会えたかどうかで左右されるのだと実感しています。

なぜやりたいのか。その理由を積極的に見つけられるものが、自分にとっての「本当にやりたいこと」なのではないでしょうか。

(文:原由希奈 写真提供:空飛ぶおりょうさん)