「思い通りにいかなくて、じぼうじきになってしまった」
数日後、ワタルの両親と高坂くんと会い、今後の裁判についての打ち合わせをした。
情状証人(刑事裁判の法廷で、被告人の罪が軽くなるよう、被告人の人となりを述べたり、再度罪を犯さないように監督することなどを裁判官の前で証言する人)に高坂くんが立つことや、何年先になるかはわからないが、ワタルが社会に帰るときは高坂くんの自立支援施設に帰ることなどの相談だ。
ワタルの母親は仕事を辞めて外にあまり出ない生活をしていると言った。父親は転職も考えているが現状は難しいと語った。
ワタルが警察に捕まる前、おそらく事件を起こす前だろうか、ワタルから「地元を離れて生活したい」と相談を受けたと父親は言っていた。あのときに遠くへ行かせていたら、こんな事件を起こすことにならなかったかも、と悔やんでいた。
ワタルの通帳に、490万円の入金があったことを警察から知らされ、その後、100万円ずつおろされて、いまはゼロだという。いま思い起こせは、そのあたりからワタルは外出をしなくなり、自室に籠り、何かに怯える生活をしていたと言っていた。
そして、ワタルの逮捕後には、銀行から口座開設のお知らせの封書が届いたという。もちろん、これはワタルが開設したわけではなく、闇サイトで戸籍謄本を出すと、こういったことにも使われるということだ。
(広告の後にも続きます)
渋谷で会ったときのワタルの気持ちとは・・・
ワタルはかなり追い込まれた状態にいた。
渋谷で会ったとき、やっぱり相談することができなかったのかな、と思う。あのときの気持ちを知りたいと手紙を書くと、ワタルから返事が届いた。
「あのときの気持ちということで、正直こんなことにならないと思っていたり、暴走族なんかの話をしたら裏切ってしまうと思っていました。まだ自分のいぜんの価値観が残っていて、相談するのはカッコ悪いと思っていたのもあると思います。
今回の事件のことは友達にも相談することができませんでした。
自分は出院後に地元に帰り、……友達の8割はしっかりと更生をして仕事をしていました。
思い通りにいかなかったりしてなげやりになったり、じぼうじきになってしまい、残り2割の方の悪いことをまだしている子と絡むことがふえていきました。……自分がこんなことをしてまで止めてしかってもくれていたのです。この子たちとは縁切りたくないです。
また、刑が10年くらいはいくだろうと思っています。お母さん、お父さんが死んでしまわないかすごく心配です」