移送されて2カ月後、ワタルの様子は・・・
移送されてから2ヵ月後の5月後半。ワタルに会いに地方の拘置所まで向かった。
ここは路面電車が走っており、見慣れない街並みだ。路面電車を乗り継ぎ、拘置所に着いた。大きな門に壁画があって貫禄ある入り口だった。
中で手続きをすませ、待っているとワタルが部屋に連れられてきた。どこの拘置所もシステムは一緒だ。面会室に来たワタルは、体が一回り大きくなった感じがした。体が引き締まり、健康的な体つきになっている。
「約束通り来たよ!」
笑顔で言うと、ワタルの顔も笑顔になった。
最近は、部屋の中で筋トレをしたり、読書をしたりしているという。拘置所で孤独になっていないかと心配していたが、この地区のNPO法人団体や「セカンドチャンス!」の仲間が面会に来てくれており、ワタルはいろいろな人に支えられていた。
不安と心配に押しつぶされていないかと思っていたが、拘置所であっても、いい人たちとつながれてよかった。
「手紙ありがとう。ワタルは文章書くのがうまいね。ワタルの気持ちがすごくわかったよ」
ワタルは少し照れた顔をしてした。
「わざわざこっちまで来ていただいてありがとうございます」
ご飯も睡眠もきちんと取れているそうだ。元気ではないが、健康的な生活が送れていてよかった。
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特定少年に下された判決は……
今日、ワタルに会ったら聞こうと思っていた話があった。
「ワタル、闇バイトのきっかけになった話を聞かせてくれるかな」
ワタルを闇バイトに誘った子は、ワタルと同時期に多摩少年院にいたという。院内での接点はなく、名前を知っている程度の間柄。出院後、インスタでワタルの名前を見つけてコンタクトを取ってきたそうだ。ワタルのインスタからその子を特定できたが、逮捕されている様子はない。
やりそうなやつを見つけては、組織に引きずり込む。誘う方も誘われる方も、抜け出せない。生きづらいこの仕組みがなくならない限り、闇バイトのような犯罪システムはずっとつづいていくだろう。
いま、ソーシャルメディアとの関わりは切っても切れないものになっている。「誰かを売らなければ、自分を守れない」となる前に、まず、そこには危険があるということを知ってほしい。
自分は大丈夫、自分だけは大丈夫、なんてことは絶対にない。
少年院での出会いが、こうして悪い方向に行くことが悔しい。「セカンドチャンス!」の仲間のように、社会で応援できる関係性であってほしいと心から思う。
ワタルの裁判の判決の日が決まったと連絡がきた。数日前の裁判では、高坂くんが情状証人に立ち、ワタルが社会に戻ってきたときのことを証言してきたと聞いた。
判決は12月13日。この日は皮肉にも、映画『記憶2』の完成試写日だった。
両親は裁判を傍聴したいと思っていたようだが、私たちはやめるように言った。マスコミが来ていれば、プライバシーなどなく質問責めにされるだろう。それはワタルも望んでいないことだ。
そして、判決のときがきた。
強盗傷害などの罪で、ワタルには懲役11年の実刑がくだされた。
この判決が重いか否かは、あえて言葉にしない。
ワタルの人生はこれで終わりではなく、まだこれからもつづく。変わらず寄り添いつづけたい。
ワタル、社会で待ってるからね。
文/中村すえこ
写真/AC写真、shutterstock