「脅されて彼女の家とか調べられ、断ったら何かされると思った…」“闇バイト”に誘われた「特定少年」の思い、そして彼の両親の覚悟とは…

「この実名報道で仕事を失うかもしれない」

それから数日後、審判の日が決まったとワタルの父親から連絡が入った。審判は3月20日と22日、2日間に分けられた。

審判当日、高坂くんと一緒にワタルのところに向かった。

ワタルの審判の結果は、逆送 (検察官送致)だった。ワタルは大人と同様に、法で裁かれることになった。

ワタルの父も母も肩を落とし、言葉がなかった。覚悟はしていたものの、現実はやはり厳しかった。

「今後、実名報道もあるということですよね。おふたりはどう思っていますか?」

高坂くんと私とワタルの両親は車に乗って、新宿にある「『非行』と向き合う親たちの会」の事務所に向かっていた。車内で後部座席に座る両親に質問すると、2人は顔を見合わせてからこう答えた。

「あいつが帰ってくる場所がなくちゃって思ってるから。頑張るしかないなって。私たちも生きていかなくちゃいけない。この実名報道で仕事を失うかもしれない。どうなってしまうか正直不安はあるけど、あいつの帰ってくる家がないとだから……」

両親もよくよく話し合ったのだと思う。ワタルの兄たちも親戚もすべてのことを含め、考えた答えがこれというわけだ。

少年法の改正は、誰のために作られたのだろうか。被害者のためなのか、加害者に必要とされたのか。

実名報道によって、加害者の家族が苦しい生活を送らなければならない状況に、疑問が残る。仕事をなくし、社会から疎外されて生きることは厳しい。
犯罪者だから?

犯罪をした者の家族だから?

だから、仕方ない。そう思う人が社会には多くいるのだろうか。

法律を否定するつもりはない。ただ、改正によりすべての人が幸せになれるわけではないということだ。

人はそれぞれ自分の置かれた立場によって意見が異なると思う。自分が、被害者になったときに、いまと同じ意見を持てるかはわからない。

文/中村すえこ
写真/AC、shutterstock

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帰る家がない 少年院の少年たち

中村すえこ

2024年8月8日発売1,650円(税込)220ページISBN: 978-4-86581-433-0

幼少期から親に虐待されて家出、食うために窃盗や強盗をした少年。友達の身代わりに詐欺の受け子をして抜けられなくなった少年。それぞれの犯罪の裏には、まだ自立できない年齢なのに、頼れる大人も安らぎもないという家庭や社会の問題がある。
また、少年院を出ても昔の仲間が足を引っ張る。追い詰められた結果、闇バイトの実行犯として懲役刑を受けた18歳の「特定少年」は「捕まってホッとしている」と言った。頼れる人のいない少年が生きていくには多くの困難がある。自身も少年院経験者の著者は、彼らが犯罪へと踏み込んでいくのは少年だけの問題ではなく、社会、すなわち大人の問題でもあると語る。人は人とつながることで生きていける。支えがあれば、人は変われる!