「ゲップができない病気」があるって知ってた?その症状や治療法とは / Credit: canva

人前でしたくもないのにゲップが出てしまって、恥をかいた経験があるかもしれません。

そんな時は「ゲップなんで出なくなればいいのに」と思うでしょうが、かといってゲップができないのは大きな問題です。

一般にあまり認知されていませんが、実は「ゲップができない病気」があるのをご存知でしょうか?

これは心身ともに苦痛を伴いますが、医学的にはまだ多くのことが知られていません。

そこで米テキサス工科大学健康科学センター(TTUHSC)は最近、ゲップができない病気を持つ人がどれだけいるのか、どんな症状を抱えているのかを新たに調査しました。

さて、皆さんにも当てはまる症状はあるでしょうか?

研究の詳細は、2023年12月20日付で医学雑誌『Neurogastroenterology & Motility』に掲載されています。

目次

ゲップが出る仕組みとは?「ゲップができない」ことは不安や抑うつにも繋がっていた

ゲップが出る仕組みとは?


ゲップが出る仕組みとは / Credit: canva

ゲップは胃や腸に溜まったガスが口の方向へ逆流する現象です。

私たちは普段から呼吸や会話、食事を通して無意識のうちに空気を飲み込んでいます。

飲み込まれた空気は胃や腸に運ばれますが、空気が溜まり過ぎて内圧が高まると、逆流を防いでいる筋肉がゆるんで空気が食道の方に漏れ出し、ゲップとなるのです。

反対に胃や腸から逆流せず、そのまま大腸まで運ばれていくと「おなら」になります。

ゲップは食事中や食後に出ることがほとんどですが、過度なストレスや便秘、不健康な食生活を送っていると頻度が増えます。

ただゲップをすることで内部のガスが排出されるので、お腹や胸の圧迫感やムカムカが解消できます。

ゲップができない病気とは?

しかし稀な症状として、ゲップをしたくてもできない場合があります。

これは「逆行性輪状咽頭機能障害(retrograde cricopharyngeus dysfunction:R-CPD)」と呼ばれる病気で、2019年に正式な病名が付けられたばかりです。

R-CPDは英語で 「ノーゲップ症候群(no-burp syndrome)」 とも呼ばれ、気管上部にある輪状の筋肉(輪状咽頭筋)の問題によって引き起こされます。

私たちがゲップをするときは普通、この輪状咽頭筋が弛緩して胃や腸の余分なガスを喉から排出していますが、R-CPDでは輪状咽頭筋が硬く収縮したままであるためにガスを排出できなくなるのです。


輪状咽頭筋の位置 / Credit: almostadoctor – Retrograde Cricopharyngeus Dysfunction (R-CPD)

R-CPDにかかると、腹部の膨張感や圧迫感、過度の鼓腸(腸管内にガスが溜まり過ぎる状態)、首や胸の辺りでゴロゴロ音がするといった症状に悩まされます。

そのため身体的に苦しいだけでなく、会議中や会食中にゴロゴロと音が鳴ってしまうなど、社会的にも辛い思いをしてしまうのです。

現在知られている治療法

今のところ、R-CPDに効果のある治療法がひとつ確立されています。

それが「ボトックス注射」です。

ボトックス注射とは、ボツリヌス菌が作り出す筋弛緩作用のある毒素を緊張している筋肉に注入することで、筋肉を弛緩させる方法で、主にシワを軽減する美容整形で使われています。

ボツリヌス毒素は、天然のタンパク質からできた毒素を分解・精製しているので、ボツリヌス菌の有害な成分などは一切含まれていません。

現在のR-CPD治療では、これを硬くなった輪状咽頭筋に注射してゲップの排出を促し、患者の80〜90%で治癒ないし改善が見られています。


現在確立されている治療法は「ボトックス注射」 / Credit: canva

その一方で、R-CPD研究の歴史は浅く、患者数も少ないため、まだまだ多くのことが知られていません。

そこでテキサス工科大学健康科学センターの医学研究チームは、R-CPDの理解をより深めるために、一般人を対象とした調査を行いました。

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「ゲップができない」ことは不安や抑うつにも繋がっていた

チームは本研究の参加者を集めるために、アメリカの掲示板サイト・Redditを利用しました。

Redditには、特定のテーマごとにコミュニティを作成できるサブレディット(subreddit)というものがあります。

チームはそこで「r/noburp」というコミュニティを作り、現在ではR-CPDの情報を共有する約2万6000人以上のメンバーが参加しています。

研究では、コミュニティメンバーに「ゲップができない症状を持つ人がいたら質問に回答してほしい」と依頼し、結果199名の参加者を得ました。

参加者には18歳〜89歳までの男女がいましたが、平均年齢は31歳で、4分の3が女性となっています。

一般的な症状について尋ねたところ、197名が「ゲップができない」と報告し、また195名が食後の腹部膨張および胸部圧迫による痛みを訴えていました。

加えて、参加者の93%は胸から首元にかけてゴロゴロ音が頻繁に鳴り、89%が過度の鼓腸、55%が嘔吐の困難を報告しています。

参加者の大半はR-CPDの症状を毎日経験しており、その不快感レベルを10段階で評価してもらったところ、平均7.3と高い数値が示されました。


ゴロゴロ音は社会的な場で心理的苦痛の原因となる / Credit: canva

さらに多くの人が身体的苦痛の他に、ゴロゴロ音を原因とする社会交流での気まずさ、不安や抑うつの感情を抱いており、心理的にも悪影響を及ぼしていることが確認されています。

参加者の多くはR-CPDを発症した時期を覚えていませんでしたが、約4分の1は小児期〜10代前半に、別の4分の1は10代後半〜20代前半に発症したと回答していました。

また半数の人は医師に診てもらったことがありましたが、「医師が症状を緩和する方法を理解していたか」という質問に対して、約32%が「理解してなかった」、約59%が「まったく理解していなかった」と答えています。

それから参加者の23%は実際にボトックス注射による症状の改善を報告していましたが、他のほとんどの参加者は独自の対処をしており、中でも「体の姿勢を垂直から横向きにすることで楽になった」といいます。

以上の結果から、R-CPDは医療従事者にとってもまだ馴染みがなく、患者は十分に適切な治療を受けられないままであることが示されました。

研究主任のジェイソン・チェン(Jason Chen)氏は「今後の取り組みとして、R-CPDの認知度を高めることに集中すべきであり、それに伴って治療法の確立や改善を促していきたい」と話しています。

もし「私もゲップできない!」という方がいれば、症状の改善のためだけでなく、医療の発展のためにも医師に相談すべきでしょう。

参考文献

‘No burp’ syndrome causes causes flatulence, ‘awkward gurgling’
https://www.livescience.com/health/viruses-infections-disease/no-burp-syndrome-causes-causes-flatulence-awkward-gurgling

How does the inability to burp affect daily life?
https://www.eurekalert.org/news-releases/1011462?

Retrograde Cricopharyngeus Dysfunction (RCPD)
https://www.utphysicians.com/no-burp-syndrome/

元論文

Retrograde cricopharyngeus dysfunction: How does the inability to burp affect daily life?
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/nmo.14721

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部