東アフリカのライオン、小さなアリのせいで狩猟成功率が下がる / Credit:Todd M. Palmer(University of Florida)_Tiny ant species disrupts lion’s hunting behavior(2024 EurekAlert)
「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざがあるように、「ある出来事が、巡り巡って思いがけないところに影響を与える」なんてことがあるものです。
最近では、「サバンナに外来種のアリが持ち込まれることで、ライオンの狩りの成功率が下がる」ことが発見されました。
これらの関連性を確認したのは、アメリカのワイオミング大学(University Of Wyoming)に所属するジェイコブ・R・ゴヒーン氏ら研究チームです。
では、一体どのようにして、「外来アリ」が「ライオンの狩りの成功率低下」へと繋がっていくのでしょうか。
ここでは、サバンナで生じている複雑な連鎖について解説します。
研究の詳細は、2024年1月25日付の学術誌『Science』に掲載されました。
目次
東アフリカのサバンナにおける「在来アリと木の共生関係」外来アリがサバンナを破壊する意外な理由で低下したライオンの狩りの成功率
東アフリカのサバンナにおける「在来アリと木の共生関係」
江戸時代からあることわざ「風が吹けば桶屋が儲かる」には、次の由来(経緯)があるようです。
大風が吹くと土埃が立ち、視覚障がい者が増加する。
視覚障がい者は三味線で生計を立てようとするので、三味線の需要が高まる。
三味線にはネコの皮が使用されるので、ネコが減る。
ネコが減るとネズミが増え、ネズミにかじられる桶も増える
桶を売る桶屋が儲かる
一見無関係に思える出来事であっても、実は繋がっているというわけです。
これはかなり強引なネタ話ですが、自然界には似たような一見無関係の事象が繋がって起きる不思議な現象が存在します。
東アフリカのサバンナ / Credit:Patrick D. Milligan(University of Nevada)_Invasive ants change lion predation in Kenya(2024 EurekAlert)
最近、サバンナで生じている「外来種のアリの持ち込み」と「ライオンの狩りの成功率の低下」がその一例です。
外来種であろうと小さなアリとサバンナの王者ライオンの狩りには、何の関係性も無いように思えます。
しかし30年にわたる観測と研究の末、この現象の背景に、アリ、木、ゾウやキリン、ライオン、シマウマ、スイギュウが関係しており、外来アリの存在とライオンの狩りの成功率がつながっていることが分かったのです。
その関係性を知るために、順を追って解説します。
まず、サバンナに生息するアリに注目しましょう。
「クレマトガスター(学名:Crematogaster)」属の一種 / Credit:Wikipedia Commons_Crematogaster
東アフリカのサバンナには、在来種である「クレマトガスター(学名:Crematogaster)」というアリ属が生息しています。
この在来アリは、東アフリカの多くの地域で生育している木「アカキア・ドレパノロビウム(学名:Vachellia drepanolobium)」と共生関係を持っています。
アカキア・ドレパノロビウムには、枝に「虫こぶ」と呼ばれる膨らんだ部位があり、在来アリたちはこの内側を噛んで空洞にし、小規模なコロニーを形成します。
アカキア・ドレパノロビウム / Credit:Wikipedia Commons_アカキア・ドレパノロビウム
またアカキア・ドレパノロビウムはアリが好む蜜を分泌し、アリたちのエサも供給しています。
一方アリたちは、住処とエサを得る代わりに、草食動物たちからこの木を守ります。
ゾウやキリンたちはアカキア・ドレパノロビウムの葉を好んで食べようとしますが、この木に住まうアリたちが一斉に噛みついて攻撃してくるため、彼らは長時間1つの木から葉を食べ続けることができないのです。
「虫こぶ」とそこに群がるアリたち / Credit:Wikipedia Commons_アカキア・ドレパノロビウム
巨大な体を持つ草食動物たちも、膨大な数のアリたちが噛んで放出するギ酸により、その場からすぐに離れざるを得ません。
東アフリカのサバンナでは、こうした在来アリの働きにより、アカキア・ドレパノロビウムが食べつくされることなく、美しい景観を保っています。
しかし、この絶妙なバランスを崩す存在が現れました。
(広告の後にも続きます)
外来アリがサバンナを破壊する
ツヤオオズアリ(学名:Pheidole megacephala) / Credit:Wikipedia Commons_Pheidole megacephala
サバンナの植物を草食動物から守るという重要な役割を持つ在来のアリたちにとって、脅威となっているのが外来種のアリたちです。
この外来種のアリは「ツヤオオズアリ(学名:Pheidole megacephala)」という種で東アフリカのサバンナで、20年間に渡り影響を与えています。
彼らの起源は、「インド洋の島から持ってこられた」「エジプトでの記録が存在する」など諸説ありますが、いずれにせよ、現在では世界中の熱帯および亜熱帯地域に広がっており、各地の在来アリたちに悪影響を及ぼしています。
東アフリカのサバンナでは、ツヤオオズアリが、在来アリの「クレマトガスター」を攻撃し、殺してしまいます。
ただし、ツヤオオズアリは、在来アリのようにアカキア・ドレパノロビウムと共生関係を築くことはなく、それらの木々をゾウやキリンたちから守ることはありません。
ツヤオオズアリが侵入していない地域(A)と侵入した地域(B) / Credit:Todd M. Palmer(University of Florida)_Tiny ant species disrupts lion’s hunting behavior(2024 EurekAlert)
結果として、外来アリが侵入した地域では、「アリと木の共生関係」が崩れ、共生関係が保たれている地域に比べて、5~7倍もの木々が消滅していきました。
ツヤオオズアリが侵入した地域と、侵入していない地域の写真を比べると、その影響の大きさがよく理解できますね。
そしてサバンナの木々の減少は、ライオンたちにも深刻な影響を与えることになりました。