ツアーで活躍しているプロたちは誰もが自分のゴルフをよりよいものにしていくためにさまざまなことを考え、走り続けている。どんなことを考え、どのようにゴルフと向き合っているのか。インタビューをとおして、その姿を探っていく。
穴井詩や神谷そら、好調が続く竹田麗央ら、ドライバー260ヤード超えが珍しくない昨今の女子ツアーだが、長距離砲といえばこの人、渡邉彩香のイメージが今でも強い。
彼女のそのキャリアで経験した不調のなかでも、もっとも苦しんだと思われる昨年後半から、今季を迎えるにあたっての心の動き、その変化などをざっくばらんに語ってもらった。
「昨年はいろいろなことを考えたシーズンだった」
――開幕からここまでの手応えはいかがですか?
渡邉:昨年が苦しかったので不安もありましたが、今のところ出た試合はほとんど予選通過できていて、自分自身ではよくやっているんじゃないかと思っています。
――昨年も前半戦はよかったですよね?
渡邉:いつも春先は調子がよくて、オフで取り組んだことの成果が出ているうちはいいのですが、試合に出場していくうちにズレが出てきて、少し悪いイメージがつくと調子を崩してしまうのが例年のパターンなんです。
――ただ、昨年はいつもより苦しい後半戦のように見えました。
渡邉:はい。もともと私は手の振りが強いスイングでしたが、その手先に頼ったものだと安定性に欠けるので、1年半くらい前から、もっと大きい筋肉を使って体で打つスイング改造に取り組んでいる途中でした。それが試合でうまく修正しきれなかったのが、不調だった原因のひとつです。
――そのころ、何かメンタルの変化はありましたか?
渡邉:じつは夏ごろ“この先も今と同じ熱量でゴルフと向き合えるのか”を考えはじめていて……。来季については競技を続けるかもわからなかったので、そのころにグッチさん(6年間コンビを組んだ川口淳キャディ)に、コンビ解消を伝えたんです。
――そのグッチさんとの最後の試合。昨年11月の大王製紙エリエールを終えたときの気持ちは?
渡邉:シードを守れなかったのは残念でしたが、良いときも悪いときも変わらず一緒に戦ってくれたグッチさんには感謝しかありませんでした。その後の具体的なことは何も考えていなくて、家族と今までと違う暮らし方があるかな、みたいなことも頭をよぎりました。
――クラブを置く選択肢もあったということですか?
渡邉:そうですね(笑)。ただ、ファイナルQT(翌年のツアー出場資格を決定するトーナメント)の申し込み締め切りがすぐそこに迫ってきていたので、考えがまとまらないまま、まずはQTを受けることにしました。
――QTの結果、来季(24年シーズン)の出場試合がかなり限定的になってしまいましたが。
渡邉:QTも終わりこれからの身の振り方を、12月いっぱいで決めなきゃいけない時季でした。そんなある日、上田桃子さんから連絡があったんです。1対1でたくさん話をしました。桃子さんとゴルフについてこれほど深く話をしたことはありません。そうしているうちに〝やっぱり試合で戦いたい!〞という感情が戻ってきて、”よし、もう1度真剣にゴルフと向き合ってみよう!”と自分のハラがようやく決まったんです。
――もしそのとき、上田選手から声がかからなかったら?
渡邉:もしかしたら違う未来になっていたかもしれません。
(広告の後にも続きます)
「少し大人になれたのかもしれない」
「トラブルになってもそれを楽しんでしまう。これが“私のゴルフ”です」
――ようやくハラが決まって迎えた今シーズンは、やはり今までと違いますか?
渡邉:メンタル面で昨年とまったく違いますね。例年だとオフでやってきたことができなくなると、悩んで調子を落としました。“こうでなきゃいけない”と理想を追い続けることが強くなる秘けつだと、今まではずっとそう思っていたんです。それが今は“自分の弱い部分を知ったうえで、どうやってプレーするかを考えること“が、これまでと違う形で強くなれるはずと思えるようになりました。今さらですけど、ちょっと大人になれたのかな(笑)
――自分への追求が強すぎると疲れてしまいますよね。ちなみに気分転換はどんなことを?
渡邉:結婚してからのオフの期間は”犬”ひと筋です。ドッグランやカフェに行って、何時間も家族で過ごします。ゴルフのことは忘れて……といいたいですが、旦那がゴルフ好きなのでいろいろ聞いてくるから、ゴルフがゼロにはならないです(笑)
――渡邉選手にとって、ゴルフを続けるモチベーションになっているのはどんなことですか?
渡邉:それはもちろん、私自身やっぱりゴルフが好きだから。それと、私がゴルフをすることで、まわりの人がすごく喜んでくれるんです。私だけでなくまわりの人たちもうれしい気持ちにさせてくれる。こんなことができるのはゴルフしかないなって。それが今も続けている理由かもしれません。
――最後に、渡邉彩香の“自分のゴルフ”とは?
渡邉:自分のゴルフ……。なんでしょうね(笑)。自分でもびっくりするようなショットが打てたり、逆に思いつかないようなミスもしてしまう。予想もつかないことをしてしまうというのが“私のゴルフ”ですかね。ハザードから打つことも多いですが、そこからどうやって出そうかと楽しんでしまっている自分がいます(笑)
――そこが渡邉選手の1番の魅力だと思います。
渡邉:ありがとうございます。今季はあえて目標とかを立てないで“毎日一生懸命、1試合1試合すべて100%の気持ち”で、目の前のできることをガンバりたいと思っています。
一昨年のほけんの窓口レディース優勝時のガッツポーズがとてもカッコよかったと伝えると“恥ずかしい”を連発していた渡邉選手。今季”大人になれた”という彼女のプレーをひと目見たくなって、インタビューの翌々週に開催された試合に足を運んでみた。
ラウンド後半のパー5、2オンを狙ったボールがバンカーに突き刺さったのを観て思わず“ナイストライ”と声が出た。“渡邉彩香のゴルフ”がいま私の目の前にある。このワクワク感、これこそがまわりの人を喜ばせる彼女のプレーの真骨頂なのだ。
そのバンカーに向かってひょうひょうと歩いてくる彼女は“さて、どうやって出そうかな”と、きっとワクワクしていただろう。
いかがでしたか? 渡邉選手の活躍に期待していきましょう!
渡邉彩香
●わたなべ・あやか/1993年生まれ、静岡県出身。2014年アクサレディスで初優勝。長身から放たれる飛距離を武器に勝ち星を重ね、2022年ほけんの窓口レディースで通算5勝目をあげた。今季はシード復帰に向けて巻き返しをはかる。大東建託所属。
文=ひよこきんぎょ
写真=ゲーリー小林
撮影トーナメント=ニチレイレディス(23年)、ワールドレディス サロンパスカップ