戦力不足でMCの座から脱落……低空飛行の日々
――2019年から初代キャスターとして『WEEKLY OCHIAI』をはじめさまざまな番組への出演が始まったそうですね。首尾はいかがでしたか?
恐ろしいことに、アナウンサーの仕事は初めてで、知識やスキル、経験などが何もない状態だったので、まずは司会進行の技術を身に付けることから始まりました。が、もちろん失敗だらけ。カンペに書かれた「次へ」「キリのいいところでこちらへ」という指示も全部読み上げていました。
――NewsPicksは経済・ビジネスのメディアですが、こちらの分野も初だったのでは?
これまでほとんど学んだことがない分野で、高度な話にまったくついていけず、もはや何を言っているのか分からない状態でした。
右往左往するうちにメインMCを担当していた番組が終了し、新しく編成された番組では、MCではなく、Twitter(現X)に流れるライブコメントを読むだけの係に降格になっていました。しかも、そこでも私は良くなかったんです。
――良くなかった、とは?
MCである古坂大魔王さんから「奥井さん、これはどう思った?」と質問をいただくことがあるのですが、ちゃんと準備ができていなくて、返答に時間がかかったり、失言したり……。
今でもよく覚えているのは、不妊治療のテーマで、テクノロジーやゲノムの専門家をスタジオに招き、進化について語る回のこと。「どう思う?」と聞かれたとき、とっさに「テクノロジーがこんなに進化しているなら、それほど悩まなくてよいのでは」と答えてしまって。
――確かにセンシティブなテーマですね。
今ならそんな返答はしませんが、当時は単にコメント読む役だと思っていたから、テーマの背景や悩んでいる人がどう感じているかを前もって調べていなかったんです。仕事の基本姿勢がそもそもできていなかったんですね。
そんな状態だから、私にはもう居場所がない、と感じていました。こんな仕事量とこのパフォーマンスで年収1,000万だなんて、ロケ弁を食べるのも申し訳なくて。新しい環境の中で、自分の価値を完全に見失っていました。
――苦しくても続けられた理由は?
そんな私にも期待してくれる人が大勢いたんです。スタッフの皆さんから、たくさんのアドバイスをもらいました。せっかく採用していただいたし、期待を裏切りたくないから腐らずにやろうと思って。でも、それからも1〜2年は結果を出せない日が続きました。
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逆境で自分の存在価値を発揮する方法
――確たる武器がなかった当時、自分の価値を示すために心がけていたことはありますか?
勉強を続けながら、とにかく周りをよく見るようにしていました。自分が何も持っていなくても、みんなが何に困っているか、チームが何を求めているかを把握することはできます。
だから、たとえ評価やスキルアップにつながらなかったとしても、困っている人がいれば助ける、ニーズを察知して応える、その姿勢を徹底しようと考えました。
たとえば、本来はインターン生にお任せする雑用でも、手が空いていれば積極的に手伝う。ドリンクを用意するなら、あの人はこの味が好き、この人はこっちが好み……と喜んでもらえる工夫をする、とか。
――そうした姿勢を続けることで、少しずつ変化が起きたんですね。
そう、「ありがとう」と言ってもらえる回数が確実に増えました。「ありがとう」の言葉って、まさに存在価値の証だと思うんです。
周りに認めてもらいたいと思った時、つい自分のスキルのアピールに必死になりがちですが、目の前にいる相手を助けたり、困っている人をサポートして「ありがとう」をたくさん聞けるようにすることこそ、周りから信頼を得るカギ。何も武器がなかったとしても、自分の価値を示せる唯一の道なのだとこの時に実感しました。
――その後、下積みの時期を経て、メインMCに復帰されますね。再び掴んだメインMCの座、手応えはいかがでしたか?
初めて「できた!」と思えたのは、2022年、『The UPDATE』という番組で古坂大魔王さんと二人でメインMCを務めていたときのことです。彼がコロナに罹患して、代役の人もつかまらず、初めて単独で番組を回しました。これがすごく視聴率が良くて、今思えばターニングポイントだったと思います。
――コツをつかんだ瞬間があったんですね。今までとは何が違ったんでしょう?
コロナ禍で番組の数が増え、さまざまな番組で学んできたことがだんだん実践できるようになってきたのだと思います。また、継続的に勉強することも欠かしませんでした。
フラッシュカードを使って金融やビジネスの単語を覚えたり、『WBS』の大江麻理子さん、『ABEMA Prime』の平石直之さん、田原総一朗さんたち人気キャスターの話し方を分析して、繰り返し真似しました。漢字を読むのが苦手だということで、漢検も取得しました。
それで、突然一人で番組に出ることになったので、せっかくだから今まで学んできたことをここで実践しようと思って、自分なりにやってみたんです。終わった後、「成長したね」というユーザーコメントを見た時はうれしかったですね。