テーブルソルトの使い過ぎは2型糖尿病発症リスクと関連あり / Credit:Canva
「糖尿病」という名称から、「砂糖の使用のみに着目する人」は少なくないでしょう。
自分はお菓子をあまり食べないから糖尿病とは無縁だ、と思っている人もいるかもしれません。
しかし、最近の分析によって、塩分の取り過ぎも2型糖尿病のリスクと関連していることが分かりました。
アメリカのテュレーン大学(Tulane University)に所属するルー・チー氏ら研究チームが、「完成した料理の塩気が足りないと感じて、常に食塩を使う人」は、滅多にそうしない人と比べて、2型糖尿病を発症するリスクが39%も高くなると報告したのです。
研究の詳細は、2023年11月付で学術誌『Mayo Clinic Proceedings』に掲載されました。
目次
2型糖尿病の発症リスクは、「塩分の取り過ぎ」で高まる
2型糖尿病の発症リスクは、「塩分の取り過ぎ」で高まる
2型糖尿病は心臓病や失明、腎不全、足の切断に繋がる / Credit:Canva
糖尿病とは、血糖値を一定に保つ「インスリン」が十分に働かなくなる病気です。
血糖値が高いまま放置されると、細い血管が詰まったり、血管から物質が漏れるようになったりします。
そして将来的に、心臓病や失明、腎不全、足の切断といった合併症へと繋がるのです。
糖尿病には1型と2型の2種類ありますが、糖尿病患者の90~95%は「2型糖尿病」です。
この2型糖尿病の原因は、その名称から、「砂糖の取り過ぎ」だと考える人は少なくありません。
しかし実際の糖尿病では、砂糖の摂取だけが大きな要因ではないと分かっています。
糖尿病の発症リスクを高めるのは、「砂糖の取り過ぎ」だけではない / Credit:Canva
もちろん砂糖の取り過ぎも2型糖尿病発症のリスクを高めますが、主な要因は、食べ過ぎや飲み過ぎ、不規則な生活、運動不足、過度なストレス、肥満、遺伝だと考えられています。
「甘いものはそこまで食べてないから大丈夫」というわけではないのです。
「遅くまで残業して睡眠不足になり、ストレス発散のために暴飲暴食する」なんてことが続いる人こそ、糖尿病に気を付けるべきなのです。
そして新しい研究では、こうした2型糖尿病の危険因子に、「塩分の取り過ぎ」が追加されることになりました。
今回、チー氏ら研究チームは、イギリスの長期大規模バイオバンク研究である「UKバイオバンク(UK Biobank)」に登録されている成人40万2982人を対象に、食品に塩を追加する頻度と2型糖尿病リスクの関連性を分析しました。
(中央値11.8年の追跡期間中には、参加者1万3000人以上が2型糖尿病を発症しました)
テーブルソルトをいつも使っているなら、2型糖尿病の発症リスクは高まる / Credit:Canva
その結果、料理に食塩を追加する人は、2型糖尿病を発症するリスクが高いと判明しました。
塩を「全く」「滅多に」追加しない人と比べて、「時々」追加する人は13%、「大抵」追加する人は20%、「常に」追加する人は39%も発症するリスクが高かったのです。
研究チームは、「塩分制限が心血管疾患や高血圧のリスクを低減させることは既に知られていますが、今回の研究で初めて、食卓から塩を取り除くことが2型糖尿病の予防に役立つ可能性が示されました」と述べています。
「塩気が足りないな」と感じてテーブルソルトの使用が習慣になっている人は、あえてテーブルソルトを食卓に置かないようにすべきなのかもしれませんね。
ではどうして、砂糖の取り過ぎではなく、塩の取り過ぎが2型糖尿病のリスクを高めるのでしょうか。
チー氏は、「完全には解明できておらず、さらなる研究が必要である」ことを認めつつ、次のように推測しています。
「食塩は人々の食べる量を増加させ、肥満(BMIや腹部肥満率の上昇)を引き起こす可能性が高いと考えています」
そして肥満は、2型糖尿病の発症リスクを高めることで知られています。
「ついつい塩を追加したくなる人」は、あえてテーブルソルトを置かない方が良いかもしれない / Credit:Canva
確かに、塩味の強い料理、もしくは味の濃い料理は、食欲を増進させますね。
食塩の使用頻度が高い人は、それだけ過食や不健康な食事をしているリスクが高い可能性があります。
また今回の研究は食塩の使用と2型糖尿病の関連を示しただけのため、食塩が直接の原因ではない可能性があります。つまり塩の使用が多い人は、自身が考えているよりも過剰に糖分も接種してしまっている可能性が考えられるのです。
多くの人は、「塩味が効いたおかずや漬物がると、いつもより白米が進む」ものです。
そして毎回テーブルソルトを使用する人は、「食が進む状態」を自ら作り出しており、いつも食べ過ぎてしまうのでしょう。
ただ塩分が直接の原因となる可能性も考慮されており、研究チームは「塩分の取り過ぎで生じる体内の炎症が、2型糖尿病の発症リスクを高めるかもしれない」と述べています。
将来、糖尿病で苦しまないためにも、日ごろから砂糖だけでなく塩分の取り過ぎにも気を付けたいものですね。
参考文献
New research links high salt consumption to risk of Type 2 diabetes
https://news.tulane.edu/pr/new-research-links-high-salt-consumption-risk-type-2-diabetes
元論文
Dietary Sodium Intake and Risk of Incident Type 2 Diabetes
https://www.mayoclinicproceedings.org/article/S0025-6196(23)00118-0/fulltext#
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。