ルノーがF1ワークス・パワーユニット(PU)開発プロジェクトの終了を決定したことは、2024年シーズン最大のトピックのひとつだ。9月30日に正式に発表されたばかりのこの動きは、1970年代からフランスのマニュファクチャラーがF1エンジンを製造してきたヴィリー-シャティヨンのファクトリー内で大きな論争を引き起こした。
アルピーヌF1チームがメルセデスとカスタマー契約を結ぶことを優先させるために自社製エンジンの開発を放棄することは激震的な動きだが、ヴィリーの施設をハイテク・エンジニアリング・センターに変貌させることに重点を置いたプレスリリースの一文に、このニュースが隠されていたことはかなり興味深かった。
アルピーヌのチーム代表であるオリバー・オークスとアドバイザーのフラビオ・ブリアトーレはともに、エンジン開発計画の変更は彼らより上の経営陣が扇動したものだと明言している。
ルノーCEOのルカ・デ・メオはフランスの『L'Equipe』(レキップ)紙の独占インタビューに応じ、この決断の背後にある動機について興味深い説明をしている。
PU開発担当者たちは2026年型PU開発プロジェクトが目標通りのパフォーマンスを発揮していると繰り返し話していたが、デ・メオCEOはこの決断について、「胸が張り裂けそうな 」ものであったものの、結局は財務的な数字がものを言ったのだと強調している。
「私は経営者で、上場企業を経営している」
そう彼は語った。
「最終的に勝つために、F1プロジェクトを見直さなければならない」
「だから、そのための近道を探しているんだ。もう2年もこのような状態が続けば、プロジェクトは完全に萎んでしまうだろう。我々は3シーズンにわたって下り坂を下ってきた。だから全てを再編成する必要があったんだ。財務的な論理を念頭に置いてね」
デ・メオCEOにとって、2000万ドル(約30億円)以下で、同等かそれ以上のパフォーマンスを発揮する、より安価なカスタマーPUをマシンに組み込むことができるのに、PU生産に必要な莫大な投資(数億ドル)は意味がないものなのだ。
「本当のマニアは、こうした計算を気にしていない。私はそうだ」
デ・メオCEOはさらに、2026年に向けて導入される新しいPU規則(効率性とバッテリーパワーへの依存度を高めるもの)によって、コストに関してこれまで以上に焦点が絞られることになると説明した。
彼は、ヴィリーでは340人のスタッフがF1に携わっていたが、900人のスタッフを抱えるメルセデスと競争するチャンスはないと述べた。
「彼らは我々にはないテストベンチを持っている。ハイブリッド時代への移行には、当時過小評価されていた強力な投資が必要だった。他社が8つのシリンダーを持っているのに対して、我々は構造的に3気筒で動いているんだ」
「私が4年前に着任したとき、グループはF1をやめようとしていた。まだF1に残っているのは、それは私がF1を救ったからだ。しかし、バッテリー化学の開発、ソフトウェア管理、エネルギー回生の最前線に立つ体制は整っていない」
「ベンチにエンジンを置いて『ボス、415kWで走ります』と言うだけではないんだ」
『日曜に勝ち、月曜にクルマを売る』のはもう無理?
F1は長い間、エンジンマニュファクチャラーにとって貴重なマーケティングツールであった。F1での成功がショールームでの販売につながることを期待してきたのだ。
しかし、デ・メオCEOは、人々が自動車ブランドから異なるものを連想するようになった今、F1とロードカーの結びつきは曖昧になっていると指摘する。
例えばアストンマーティンが成功すれば、PUメーカーのメルセデスではなくアストンマーティンの市販車販売台数の増加をもたらすはずだ。それはマクラーレンでも同様だ。
デ・メオCEOは、エンジンを自前で作ることの価値はもうなくなってしまったと明言している。
「スポンサーはチームのために来るのであって、エンジンのために来るのではない」
「パートナーはマクラーレンと契約するのであって、メルセデスと契約するわけではない。F1の大衆は変わった。若者や女性を含むようになった。この新しい顧客層は、このスポーツに対して異なる解釈を持っている」
「我々はドライバー、カラー、ブランドをサポートする。エンジンではない。アルピーヌはランキングを考えると、ボーナスを失っている。スポンサーは少ない。我々には穴があるんだ。アルピーヌは儲けなければならない」
彼はまた、フランスのスーパーチームを作るという夢は、国がそれを支持しなかったため、結局失敗に終わったと語った。
「私はフランスのチーム、フランスのフェラーリを作りたかった。ふたりのフランス人ドライバーをバケットシートに座らせたんだ」
「私と一緒にA524をじっくり見てみよう。フランスのスポンサーはない。一社もね!」
「私は何度もドアをノックしたが、無駄だったんだ……」
ルノーとアルピーヌは、これまでF1エンジンプロジェクトに携わっていたスタッフの雇用を保証しているが、デ・メオCEOは、全員が別の仕事に就くことを望んでいるわけではないことを認めている。
F1に留まりたいと考えている者たちについては、すでにライバルが彼らを引き抜こうと接触してきていることを明かした。
「F1エンジンを作るというアイデアに前向きに突き動かされている人たちがいるのなら、彼ら自身の異動は問題ないだろう」
「フェラーリのフレデリック・バスール(チーム代表)が我々に電話してきて、我々の会社から何人か出してくれないかと頼んできたんだ。彼らが移籍後にガーデニング休暇をしなくても良いようにね。OKだ。仲間を牢獄に入れるようなことはしないよ」
また、ルノーがF1エンジンプロジェクトを終了させるのは、チームを売りに出すための重要なステップだと噂されていた。
これは繰り返し否定されてきたことであり、デ・メオCEOはそれを実行する意味がない理由を再び説明した。F1ブームでチームの価値が急騰し続けている今、売却する理由はないと彼は言う。
「私は15日おきに、F1への参入を望む金融業者や変わり者から電話を受ける。彼らは、2026年以降はもっと参入にコストがかかることを知っている」
「今日、10億ポンドでチームを買収しても、2年後には倍の値段で転売されるだろう。ここは投機家だらけだ。私は50回断っている。チームの価値はすぐに30億ドルから50億ドルになる。私は売るつもりはない。バカではないからね」
「F1に参戦することはアルピーヌ・ブランドにとって不可欠だ。我々はクローズドなクラブにいる。クルマ好きの間で、ブランドの信頼性を高めることになる。お金は必要ない」