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テトリスをやったことがある人なら、プレイ中に「なんとなく癒される…」と感じたことがあるのではないでしょうか。

実は世界で最も売れているゲームのひとつであるテトリスは、さまざまな心理研究でも利用されておりメンタルヘルスの改善に一役買うことがわかっています。

落ちてくるピースを長時間眺めるゲーマーは、思考や夢の中でもピースを見る「テトリス効果」を経験します。この高い没入感は、トラウマに関連する出来事の影響を和らげる可能性があるというのです。

今回は、テトリスの「トラウマを癒す効果」についての研究の紹介です。これを読んだら、あなたもまたテトリスをプレイしたくなるかもしれません!

目次

「脳を他に集中させることで記憶の定着を防げないか?」トラウマ体験直後に視覚的負荷をかけて記憶の定着を妨げる「定着した悪い記憶」も頭の中で回転させると力が弱まる

「脳を他に集中させることで記憶の定着を防げないか?」


トラウマ体験とは、個人が極度のストレス、恐怖、または無力感を感じるような出来事を経験すること。 / Credit: Canva

トラウマ体験は、個人が極度のストレスや恐怖を感じる経験を指します。これには自然災害、事故、戦争、暴力、虐待など、身体的または心理的に影響する出来事が含まれます。

そして人生の中で何らかのトラウマ体験をすると、それを原因としてPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症することあります。

その代表的な症状の一つがフラッシュバック(つらい記憶が前触れもなく強く思い出されて再体験すること)です。

フラッシュバックは、トラウマ体験に関連する不快で強烈な記憶(侵入記憶)が、極めてリアルに再体験される現象です。

そのため、PTSDの治療ではこの「侵入記憶」の対処に焦点が当てられます。

ところで、私たちの心はカメラのように出来事を即座に記憶するわけではありません。記憶の定着には一定の時間がかかるものです。

このことから、スウェーデン カロリンスカ研究所(Karolinska Institutet)のホームズ教授らの研究チームは、「記憶の形成中に、その作業を阻害するイメージ処理の負荷を脳に与えて集中させれば、フラッシュバックの回数を減らせるのではないか」と考えました。

彼らは、この仮説を検証するため、星座を想像したり、頭の中で複雑なパターンをつくるなどの「脳に負荷を与えるイメージ処理」を検討しました。

そして、試行錯誤の結果たどり着いたのが「テトリス」だったのです。

とはいえ、いきなりこの流れでパズルゲームの名前を出されても唐突感が否めません。なぜ研究者らは、テトリスに注目したのでしょうか?

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トラウマ体験直後に視覚的負荷をかけて記憶の定着を妨げる

「テトリスって何?」という方はいらっしゃらないと思いますが、念のため説明をしておきましょう。

テトリスは、1984年にアレクセイ・パジトノフ(Aleksei Leonidovich Pazhitnov)によって開発された、コンピュータパズルゲームです。

プレイヤーは、落ちてくる様々な色や形のブロックを回転させて画面下部に配置し、横一列に空きスペースなく揃えることで、その列のブロックを消してスコアとさらなるプレイ時間を獲得します。

ブロックを適切な位置に配置するためには、空間的な認識と予測が必要です。

プレイヤーは、ブロックを実際に動かす前に、頭の中で動かした結果を予測するという、まさに「脳に負荷を与える」イメージの処理を行わなければならないのです。

研究者らはこの点に注目し、テトリスを使った「テトリス療法」を試すことになったのです。

研究チームは2017年、交通事故直後6時間以内の自動車事故被害者71人に「テトリス療法」を施す実験を行いました。

実験で参加者は、自分の事故をイメージしつつテトリスで遊ぶグループと、別の課題を行うグループに分けられました。

結果、テトリスをプレイしたグループの参加者は、事故から1週間後の侵入記憶が対照群に比べて少なく、より早く減少することがわかりました。

この結果は、トラウマ体験直後に視覚的負荷の高い作業を行うことで、記憶の鮮明さを減らし、曖昧にする効果があることを示唆するものです。しかしこれは、「ひどい体験をした直後にテトリスをプレイした場合の効果」に限定されます。

現実的には、トラウマ体験直後の人にゲーム機を渡し、「今こそテトリスを!」と誘うのは、適切とは言えませんよね。

そこで研究チームは、記憶がすでに定着した人にもテトリスが効果を発揮するか、確認する実験を行いました。