人間の最長寿命はこれ以上延びないのか? / Credit:Canva

長期的に見て、人間の寿命は延びてきました。

しかし最長寿記録は1997年にジャンヌ・カルマン氏が122歳の記録を打ち立てて以来、25年以上も更新されていません。

この停滞は、「人間の寿命の限界」が120歳前後ということを意味しているのでしょうか?

人間の寿命の限界は既に引き出されており、これ以上延びることはないのでしょうか?

これについて、アメリカ・ジョージア大学(University of Georgia)に所属する経済学者デイビッド・マッカーシー氏ら研究チームは、先進国19カ国の出生・死亡データを分析し、今後人間の寿命はさらに延びる可能性があると報告しています。

現在生きている1910~1950年生まれの人々が、近いうちに長寿記録を更新するかもしれないというのです。

研究の詳細は、2023年3月29日付の学術誌『PLOS ONE』に掲載されました。

目次

人間の最長寿命は25年間も停滞している人間の最長寿命は「今後数十年で大幅に延びる」かもしれない

人間の最長寿命は25年間も停滞している

人間のパートナーである犬の平均寿命は15年ほどですが、その長寿記録は29歳です。

また亀やクジラの最高齢は200年近いと考えられています。

このように、同じ生き物でも寿命の限界には大きな差があるようです。

そのため私たち人間は、何千年もの間、「はたして人間はどのくらいの期間生きられるのか」という疑問を抱いてきました。


人間の寿命は、生物学的な限界に達したのか? / Credit:Canva

歴史が証明しているように、医療の発展によって寿命は延びます。

しかし、いくら環境や医療が改善されたとしても、生物学的な限界は超えられないはずです。

そして25年前から長寿記録が更新されていないことから、「人間の寿命は、生物学的な限界に達したのではないか」と考える人も少なくありません。

実際、現在110歳を超えている数十人の人たちについても、122歳を超える可能性は低いと考えられています。

では実際のところ、人間の長寿記録はもう延びることはないのでしょうか?

この疑問に答えるため、マッカーシー氏ら研究チームは、これまでの人間の死亡率の傾向を分析することにしました。

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人間の最長寿命は「今後数十年で大幅に延びる」かもしれない

分析には、死亡率に関する世界的なデータベース「Human Mortality Database」から、現在先進国である19カ国の人々の出生・死亡データが用いられました。

また「ゴンぺルツの法則」と呼ばれるヒトの年齢と死亡率の関係を表す法則(年齢に対して死亡率は指数関数的に増大する、という考え)を用いました。

そして出生の年代(1700年代以降)ごとにグループを作り、死亡率や最長寿命がどのように推移しているのか、また現在の世代のグループの死亡率がどう変化していくのか推測しました。


出生年代ごとに死亡率の傾向を分析 / Credit:Canva

この分析では、出生年代ごとのグループが、次の2つの傾向のうち、どちらを示しているかを調査しました。

1つは、「死亡率の圧縮」と呼ばれる傾向です。

これは人々がより健康的に過ごせるようになったものの、高齢になった後、死亡率が急激に上昇するという現象です。

つまり長生きする人が増えるため平均寿命は延びますが、最長寿命自体は変わらないというもの。

もう1つは、「死亡率の延期」と呼ばれる傾向です。

これは人々が健康的に過ごせるようになった結果、高齢者の平均余命(あと何年生きられるか)が延びる現象です。

この傾向が見られる場合、死亡率の圧縮のように高齢者になっても死亡率が急激に上昇しないため、最長寿命は更新されていくことになります。

研究チームの分析の結果、歴代のほぼすべての出生年代グループにおいては「死亡率の圧縮」が見られました。

平均寿命は延びているものの、高齢者の死亡率が急激に上昇し、最長寿命は変化しなかったのです。

ところが、1910~1950年の間に生まれた出生年代グループだけに「死亡率の延期」が見られ、ゴンぺルツの法則を適用した場合の最長寿命が5年ほど伸びると推測されました。

このグループの人々は2023年現在、73~113歳であるため、彼らが推測どおり最長寿命を更新するかはまだ分かりません。


今後数十年で最長寿命が大きく延びるかも / Credit:Canva

それでも分析結果が正しければ、人間は生物学的な寿命の限界にまだ到達していないと言えます。

マッカーシー氏は、「今後数十年の間に、長寿記録が大幅に伸びる可能性があります」と結論付けました。

また研究チームは、この年代グループで死亡率の延期が見られた理由について、第二次世界大戦後の医療の進歩や公衆衛生政策の改善が関係していると推測しています。

これらの要素は、当時、既にある程度の年齢に達していた人々の平均寿命を延ばすのを助け、その時代以降に生まれてきた人々には、平均寿命を延ばすだけでなく、最長寿命を延ばすよう助けてきた可能性があるのです。

とはいえ、第二次世界大戦後以前は、長期にわたって最長寿命が変化しておらず、「死亡率を下げる要素や社会的変化」のすべてが最長寿命を更新するのに役立つわけではないこともわかっています。

そのため死亡率の延期を引き起こす要素を特定し、その変化を生じさせられるなら、その後に生まれる世代は、最長寿命をさらに延ばしていくかもしれません。

今回の研究はあくまで統計的な調査であり、人間の健康や寿命に関する生物学的な観点は含まれていません。

しかし人間の寿命の生物学的な限界にまだ先があるとすると、それはどこなのか? また寿命に幅が生まれる要因はなんなのか、興味深いテーマがいろいろと生まれそうです。

参考文献

Record-Breaking Human Lifespans Predicted by The Year 2060. Here’s Why.
https://www.sciencealert.com/record-breaking-human-lifespans-predicted-by-the-year-2060-heres-why

元論文

Mortality postponement and compression at older ages in human cohorts
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0281752

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。