他者のためにお金を使うと幸福度が高まる / Credit: unsplash
自分ではなく他人のためにお金を使ったほうが幸せになるようです。
ブリティッシュ・コロンビア大学のエリザベス・ダン氏(Elizabeth Dunn)らの研究チームは、自分のためにお金を使った人よりも、他人のためにお金を使った人の方が主観的幸福感が高くなるという研究を報告しています。
このお金の使い方による幸福度の変化は、金額が少額であっても生じるという。
最近ではYou Tubeでスーパーチャットという機能を利用する人が増えている一方、このお金の使い方がまったく理解できないという人たちも多く存在しています。
この研究結果は、こうした解釈に溝のある問題を理解する際にも役立つかもしれません。
研究の詳細は、学術誌「Science」にて2008年3月21日に掲載されました。
目次
収入が増えるほど幸せになれるのか他人のためにお金を使うと幸福度は高まるのか?
収入が増えるほど幸せになれるのか
生きていくうえで「幸せになりたい」と思うことは至って自然なことです。
しかし現代では「何が幸せなのか」の指標が曖昧になってきています。
かつては収入が多くなればなるほど幸福度は高くなるものと考えられてきました。
たしかにお金がなければ、普通の生活を送ることもままなりません。
一方でお金が十分にあれば、自分の望むものを買うことができ、幸せを享受できると考えられます。
しかし近年の研究によると、年収が上がっても幸福度はある時点で頭打ちになってしまうという報告があります。
有名なのは、2002年にノーベル経済学賞を受賞した、米プリンストン大学のダニエル・カーネマン氏(Daniel Kahneman)らの研究でしょう。
彼らは米国の世論調査を行っているGallup社が実施する調査データを用い、年収と幸福度の関係性を調べた結果、年収が約750ドル(当時の日本円換算で約1,000万円)を超えると幸福度が頭打ちになってしまうことを報告しました。
年収と幸福度の関係性。 / Credit: Kanhneman et al, (2010).
頭打ちになってしまう理由は、年収が増えれば増えるほど、お金から得られる幸せに徐々に慣れてしまうからだと考えられています。
このような研究結果が報告されるようになったことで、「お金と幸福度」の関係性においては、お金の量よりも使い方が重要なのではないかとの考えが多く述べられるようになりました。
そこでブリティッシュ・コロンビア大学のエリザベス・ダン氏(Elizabeth Dunn)らの研究チームはお金をどのように使えば幸福度が高まるかを検討しています。
彼らはまずオンラインで募集した632名を対象に、典型的な月の収支、他者へのプレゼントにかかった金額、慈善活動への寄付額等を尋ね、お金の用途と幸福度の関係を調べました。
分析の結果、他人へのプレゼントや慈善団体に対する寄付のような利他的な支出が多い人ほど幸福度が高い傾向がありました。
実験の結果を改変。 / Credit: Duun et al., (2008).
しかしこれらの関係性は相関関係であって、利他的な支出を増やせば幸福度が高まるといった因果関係があるかは定かではありません。
もしかすると人生に対し満足感が高い人が積極的に利他的な支出を多くしている可能性も考えられます。
そこで研究チームはこの問題を検証する実験を実施しました。
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他人のためにお金を使うと幸福度は高まるのか?
この疑問に答えるためには、ランダムに集めた参加者を、他者のためにお金を使うグループと自分のためにお金を使うグループに分け、その後の幸福度の比較を行わなければなりません。
ダン氏らの研究チームは、参加者46名にお金を与え、2つのグループに分けて、それぞれに「他人のためにお金を使う」「自分のためにお金を使う」という消費活動を行ってもらいました。
また、参加者に与える金額についても、低額($5、当時の為替レートで約450円)、と高額($20、約1800円)に2パターンを用意し実験当日の朝に郵便でお金を渡し、夕方に参加者に電話をかけ、その時の主観的幸福感を尋ねました。
その結果、自分のためにお金を使った人よりも、他人のためにお金を使った人のほうが、主観的な幸福感が高くなったのです。
実験の結果を改変。 / Credit: Duun et al., (2008).
この傾向は渡された金額の高さに関係なく見られました。
また今回の実験では、研究チームが別で雇った大学生109名に上記の実験の手順を説明し、事前にどちらの方が幸福度が高くなりそうかを予測してもらっています。
そこでは、他人のためにお金を使うよりも、自分のためにお金を使ったほうが幸福度は高くなり、$5よりも$20もらうほうが幸福度が高くなると予測されていました。
実験の結果を改変。 / Credit: Duun et al., (2008).
これらの結果は、他者のためにお金を使うことの幸福感はあくまで主観でのみ感じるものであって、他者の視点からは理解できない効果であることがわかります。
多くの人は、他者のためにお金を使うことに対して誤った見解を持っているのです。
しかしなぜ自分のためにお金を使うよりも他人のためにお金を使ったほうが幸せになるのでしょうか。
それは他者のためにお金を使うことで「社会的なつながり」が感じられ、共に喜びを分かち合い、より良い人間関係の形成に役に立つからだと考えられています。
では、この幸福感は見返りは求めていないのでしょうか?
そこで他者にお金を使った際に、他者との関係性の充足が生じない場合に幸福度はどう変化するかを調べた研究があります。
それはカナダのサイモン・フレーザー(Simon Fraser)大学のララ・アクニン氏(Lara Aknin)らの研究で、①$10分のカードを相手にただ渡すだけと②一緒にカフェに行き相手のために使う場合を比較しています。
結果、一緒にカフェに行き相手のために$10分のカードを使った人は、相手にただ$10分のカードを渡した人と比べて、主観的幸福感が高くなったのです。
実験の結果を改変。 / Credit: Aknin et al., (2013).
幸福度の向上の観点から考えると、慈善団体への寄付よりも身近な友だちに対するプレゼントのほうが、より相手との社会的なつながりを感じることができ、主観的幸福感を高めるだろうと予測できます。
これは他者のためにお金を使う場合は、相手から反応をもらえる場合の方がより効果が大きいと考えられます。
小さいプレゼントや寄付でも構いません。
買い物でお釣りが出た時、買い物に出かけた時に誰かのためにお金を使ってみてはいかがでしょうか。
参考文献
More Evidence That Spending Money On Others Makes Us Happier Than Spending On Ourselves
https://www.forbes.com/sites/traversmark/2021/06/26/more-evidence-that-spending-money-on-others-makes-us-happier-than-spending-on-ourselves/?sh=67f6bb88546a
The Hidden Path To ‘Buying Happiness’ With Money Revealed
https://www.spring.org.uk/2023/12/spend-happ.php
Need A Happiness Boost? Spend Your Money To Buy Time, Not More Stuff
https://www.npr.org/sections/health-shots/2017/08/28/545839192/need-a-happiness-boost-spend-your-money-to-buy-time-not-more-stuff
Social giving makes us happier
https://www.eurekalert.org/news-releases/470149
元論文
Spending Money on Others Promotes Happiness
https://www.science.org/doi/10.1126/science.1150952
High income improves evaluation of life but not emotional well-being
https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.1011492107
ライター
AK: 大阪府生まれ。大学院では実験心理学を専攻し、錯視の研究をしていました。海外の心理学・脳科学の論文を読むのが好きで、本サイトでは心理学の記事を投稿していきます。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。