ロシア国防省が新型のステルス偵察機と攻撃用ドローン機能を合わせ持つ最新鋭ステルス無人機の開発を、同国の航空機メーカー・スホーイ社に依頼したとされるのは2011年のこと。

 以後、同社により秘密裏に開発が進められ、同機の画像が初めて確認されたのが19年1月。ロシアの航空関連ウェブサイトに掲載されたその1枚の写真は中南部ノボシビルスクにある飛行場で撮影されたもので、大雪が降り積もるなか牽引される機体が不鮮明ながらも確認できるものだった。軍事ジャーナリストの話。

「これはS70オホートニク-Bというステルス無人攻撃機。オホートニクとはロシア語で『ハンター(狩人)』を意味します。ジェットエンジンを搭載し翼幅約20mという戦闘機並みの大型ドローンで、全体の形状は米空軍のステルス戦略爆撃機ノースロップ・グラマンB-2と似ている。中国軍所有の天鷹、米空軍のロッキード・マーティンRQ-170といった無人機に匹敵するか、それ以上の高性能クラスだとされています」

 現地メディアによれば、S-70オホートニクの初公開は18年6月で、19年8月に初飛行が確認されたとの情報もあるが、22年以降、ウクライナとの戦いで実戦に使用されていたかどうかは全くの謎とされていた。

 ところが、そんなS-70オホートニクが10月5日、激戦が続くウクライナのドネツク州の要塞都市チャシウヤール付近で、原因不明のアクシデントにより墜落。ウクライナ軍部では“2カ月も早い空からのクリスマスプレゼント”とばかりに沸いているという。

「まだ開発途中なのか完成していても実用化に至っていないのかはわかりませんが、19年に初飛行が確認されたと報じられたものの、ほとんどその姿が目撃されたことがない敵の最新鋭ドローンですからね。おそらくはロシア軍の中でも、まだほんの数機しか存在していないことは間違いない。その希少価値ある1機が残骸ではあるものの、自国の領内に落ちてきたわけですから、ロシア軍としてはこれ以上の痛手はないはず。ロシア空軍の非公式テレグラムチャンネルには《これは辛い!おそらくオホートニクはネジ1本にいたるまで細かく分解され、内部構造を徹底的に調べられることになるだろう》など嘆きのコメントが相次いでいるようですが、まさに飛んで火にいる夏の虫となってしまったということです」(同)

 墜落の原因については今後のウクライナ軍の分析を待つことになるが、地上から撮影された動画には同機が軍用機ミサイルにより撃ち落され、煙を上げながら地上に落下していく様子が映っている。となればウクライナ軍によって撃ち落されたと考えるのが自然だが…。

「一部情報によれば、オホートニクは完全な自律性を備えておらず、地上の操縦士により操作されているドローンであるため、ウクライナ軍がこの付近一帯に飛ばしている強力なジャミング(電波妨害)に遭い操縦不能になってしまったという。しかしロシア側としては、同機を無傷で敵支配地域に不時着させるわけにはいかない。そこで断腸の思いで自ら撃墜し破壊したのではないかという説も流れています」(同)

 ただ、それが事実だとすれば、ロシア軍にまだ第一線部隊に配備できる段階でなかったオホートニクを実戦に投入せざるを得ない“事情”があったとも考えられる。

 いずれにせよ、墜落したオホートニクの残骸はウクライナ軍により回収され、アメリカ軍に調査解析されることになる。ロシアにとっては10年以上の歳月と巨額な費用をつぎ込んだ最新鋭無人機が、ただの鉄クズになる可能性も出てきたのである。

灯倫太郎

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