10月9日に解散した衆議院の総選挙に向け、石破茂首相は「裏金議員」計12人を非公認とした。自民党内では裏金議員の怨嗟の声と、安堵する声の双方が漏れ、大荒れの中で突入する異例の選挙戦となる。10日から首相はASEANに出席するため、ひとたび決戦の舞台から離れるが、衆院選後の永田町では本当の戦いが待ち構えている。
「有名人になっちゃったよ~」という余裕が一転、裏金議員はあとがない状況に
衆院解散を午後に控えた10月9日朝、それまでに非公認が明らかになっていた6人に加え、新たに裏金議員6人が非公認となったことが発表されると、永田町では驚きの声が上がった。
「自民が先週実施した極秘の情勢調査の結果が思わしくなく、党執行部は、裏金議員に厳しく対応する姿勢を見せることで国民の支持を集める作戦に出ました。新たに非公認となった裏金議員は、情勢調査の結果がとくに悪かったそうです」(全国紙政治部記者)
裏金問題が取りざたされ始めたころは「有名人になっちゃって、街でも『一緒に写真撮ってください』って頼まれるんだよ~」と余裕も見せていた、ある旧安倍派議員は「とにかくなるべく裏金問題の記憶が薄れた状態で選挙したかった。裏金問題が蒸し返されてしまったし、非公認や比例復活なしの措置も重い…」と嘆く。
非公認になると、党からの金銭的支援もなく、選挙カーの数も少なくなるなど、公認と比べて苦しい戦いとなる。そして、選挙基盤の弱い議員にとっては、公認されても比例復活できないことが死活問題となる。
「これまで自民党が圧勝していた選挙ですら比例復活に甘んじてきた議員にとっては、裏金問題の逆風が吹く中、小選挙区で勝ち抜くのは至難の業。比例復活ができないなら、すでに『落選確実』状態です」(自民党関係者)
実際、過去2回の衆院選で比例復活を繰り返してきた越智隆雄氏は、裏金議員の比例復活がないことが発表された翌日、不出馬の意向を表明した。
「このまま永田町にいても、出世の見込みはほぼない。多額の選挙資金を使って惨敗するよりも、さっさと撤退したほうがいいという判断なのでしょう」(同前)
(広告の後にも続きます)
非裏金議員は「ライバルが減る」と歓迎
今回、非公認や比例復活なしの対象となった議員のほとんどは、かつて石破氏とは距離のある安倍派に所属してきた。そのため、もともと党内でくすぶっていた石破支持派と、反石破派の対立は、より深まった形だ。
それだけでなく、総裁選で石破氏を支持していた平沢勝栄氏(旧二階派)も公然と「この問題に関する決定プロセスには理解に苦しむものもあります」とコメントを発表。裏金議員の間で石破氏への不満は広がっている。
ただ、党内からは「石破おろしは早々に起きるかもしれない。こんなことをされると、2025年の参院選でも、2028年の参院選でも、裏金議員の処遇問題を蒸し返される」という声もある一方で、「裏金を作っていなかった議員からすると、裏金議員の比例復活を認めれば『比例で自民に投票して裏金議員を救うのは嫌だ』という動きが強まるところだった」という安堵の声も。
「比例復活できるかどうかは、他選挙区の自民候補との惜敗率の勝負になる。比例名簿に載る候補が減るだけでも、ライバルが減る」(非裏金議員)というわけだ。
実際に小選挙区で落選した場合、大半の地域では、複数県の自民候補と数議席を奪い合う構図となり、惜敗率数ポイントの差が明暗を分ける。
自民に逆風が吹く今回は、小選挙区で負ける自民候補が増える一方、自民に配分される比例の椅子も減って競争が激しくなることが十分予想されるため、ライバルは一人でも少ないほうがいいというわけだ。